第97回 “辞書いらず”フランス語 /「テーマ別」ラ・ロシュフコー箴言集 「エスプリ」
皆様こんにちは、今回も当ブログにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
今回は「テーマ別」箴言シリーズ「エスプリ」をご紹介します。箴言番号は100、102、103です。いつものように、各「テーマ」の初回は、分類者であるJean-Marie André氏による「巻頭言」からご紹介します。それでは、お楽しみください。
<引用はじめ>
L’esprit : la politesse de l’esprit consiste à penser des choses honnêtes et délicates
◎エスプリ :エスプリの礼儀は、物事を正直かつ繊細に考えることである。
(訳注)
・esprit :精神、頭、意識、知性、頭脳、才気、機知、エスプリ、気性、才覚、想像力。
→以上の通り、espritの訳語は非常に多いことから、ここでは「精神」「頭脳」などの訳語を当てようと思いましたが、どの訳語もぴったりとしないことから、カタカナで「エスプリ」と訳しました。以下の箴言においても同様です。
・politesse:礼儀、礼儀正しさ、礼儀行為、あいさつ
(100)La galanterie de l’esprit est de dire des choses flatteuses d’une manière agréable.
◎エスプリという心づかいは、相手を喜ばせる言葉を、心地よい方法で語ることである。
(訳注)
・galanterie:(女性に対する)親切、心づかい、配慮、(多く複数形で)女性に対するお世辞・口説き文句
・de:ここでは、「~という」(同格)と訳しました。
・chose:もの、ことですが、ここでは(相手を喜ばせる)「言葉」と訳しました。
・flatteuses :形容詞flatteurの女性形。①こびへつらう、お世辞のうまい ②うれしい、まんざらでもない、相手を喜ばせる ③美化する、実際よりよい →ここでは、文脈から①の「こびへつらう」ではなく、②の「相手を喜ばせる」と訳しました。
・d’une manière ~:~のような方法で(manière「仕方」「やり方」「流儀」「手法」
・agréable:快適な、心地よい、楽しい、(非人称構文でil est agréable~ ~することは快い)
➡この箴言を読むと、エスプリというものに対して、いかに当時の貴族社会において高い価値が与えられていたのかが分かる気がします。
(102)L’esprit est toujours dupe du cœur.
◎エスプリはいつも、心にだまされる。
(訳注)
・dupe:①(名詞)だまされた人、だまされやすい人 ②(形容詞)de~にだまされた
・cœur:①心臓 ②胸、胸のあたり ③心、胸、本心、情 ④気持ち ⑤(文学的表現で)愛情⑥熱意、やる気 ⑦トランプのハート ⑧中心 ⑨(果物・野菜などの)しん ⑩核心
➡ここでいうエスプリは、理性(raison)に近いかもしれませんね。パスカルのパンセ断想No.278(※)で述べている「理性にではなく、心情に感じられる神」(Dieu sensible au cœur, non à la raison)のイメージです。
「エスプリ」=「お世辞」、「心」=「ホンネ」と理解すれば、エスプリと心が対立する(=エスプリが心にだまされる)という表現も確かにアリだと思います。
(※)注:第2回ブログで触れましたが、私は学生時代に完全にパスカルに支配されていました。現在は距離を置いています。「信仰」については実質無宗教です(葬式仏教程度です)。
(103)Tous ceux qui connaissent leur esprit ne connaissent pas leur cœur.
◎己のエスプリを知る者が皆、己の心のことを知っているとは限らない。
(訳注)
・connaissent:connaîtreの三人称複数形。
・Tous ceux qui~:quiは関係代名詞で「~するような全ての人々」。Tous mes amis ne sont pas venus.「私の友達が全員来た訳ではない」。
なお、指示形容詞tous(toutes)は全否定にも部分否定にもなり得ます。例えば、Je n’aime pas toutes ces voiture-là.を全否定で解釈すると、「あんな車はどれも嫌いだ」となりますが、部分否定で解釈すると、「ああいう車がみんな好きだという訳ではない」となります。ここでは、「全否定」ではなく「部分否定」で解釈するのが自然だと思います。
<引用おわり>
いかがでしたでしょうか。Tousの部分否定や、単語の解釈はやや難しいですが、いつものように深みのある箴言だったと思います。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。