第43回 ヴェルレーヌ LA BONNE CHANSON (心地のよい歌)

第43回 ヴェルレーヌ LA BONNE CHANSON (心地のよい歌)

 皆様こんにちは、本日もお立ち寄りいただき、ありがとうございます。

 今日はヴェルレーヌの可愛らしい詩をお届けします。「LA BONNE CHANSON」(心地のよい歌)という彼の4冊目の詩集からの抜粋です。フランス語文に続き、翻訳(◎印)と訳注を付しています。

 まるで印象派の絵画、ちょうどルノアールがピアノに向かう二人の少女を描いた絵があったと思いますが、そんな愛らしい情景が目に浮かぶような詩です。

 通常、ソネットですと4/4/3/3で区切られるのですが、この詩に関してはその区切りがありません。ちょうど一枚の絵画を「まとまりとして」じっと眺めているかのように、区切りが無く、14行が一気に書かれています。押韻は言わずもがな、全詩行が12の母音で構成されており、完成度も抜群です。

 出版は1870年、詩に歌われたと言われるMathilde Mauté de Fleurvilleと結婚した年です。婚約者へのラブソングですから、詩人の弾むような胸の内が「リズム」を伴って伝わって来ます。本当に素晴らしい詩です。「ことば」による見事な描写と言って良いのではないでしょうか。フランス語学習のモチベーションを間違いなく高めてくれる詩の一つだと思います。

1)Son bras droit, dans un geste aimable de douceur,

◎やさしく心地よさげな身振りとともに、

(訳注)

・geste:身振り、態度

・aimable:親切な、愛想の良い、感じの良い

・douceur:快さ、優しさ、穏やかさ、滑らかさ、甘いもの

2)Repose autour du cou de la petite sœur,

◎彼女の右腕は、小さな妹の襟元を包みこむように置かれている。

(訳注)

・autour du:de~のまわりを

・cou:首、襟もと

3)Et son bras gauche suit le rhythme de la jupe.

◎そして彼女の左手は、波打つスカートを追いかけている。

(訳注)

・rhythme:英語のrhythm(リズム)と、仏語のrythmeが一緒になっている模様です。

・jupe:スカート

4)A coup sûr une idée agréable l’occupe,

◎間違いなく、何か心地よい考えが彼女をとらえたのに違いない。

(訳注)

・A coup sûr:必ず、間違いなく

5)Car ses yeux si francs, car sa bouche qui sourit,

◎というのも、彼女の澄んだ瞳と、ほほ笑むくちびるが、

(訳注)

・franc:明かな、はっきりいた、混じりけの無い、純粋な

6)Témoignent d’une joie intime avec esprit.

◎知性を伴った内面の喜びを表しているからだ。

(訳注)

・Témoigner de:de~を保証する、証明する

・esprit:精神、知性、頭脳、才気、機知、気性、性向、想像力、才覚、意思

7)Oh ! sa pensée exquise et fine, quelle est-elle ?

◎ああ、なんと彼女の思いは甘美で繊細であることだろう、いったい彼女は誰なのだろうか?

(訳注)

・exquis:甘美な、心地よい、優美な、洗練された、大変おいしい

・fin:細い、薄い、上質な、利口な

8)Toute mignonne, tout aimable, et toute belle,

◎本当に愛らしく、感じ良く、そして美しい。

(訳注)

・mignonne:かわいい、愛らしい

9)Pour ce portrait, son goût infaillible a choisi

◎この肖像画のような状態を演出するために、彼女の間違いのない好みは、

(訳注)

・portrait:肖像画、肖像写真、描写、人物描写

・infaillible:必ず効く、成功確実な、無謬の、誤りを犯さない

10)La pose la plus simple et la meilleure aussi:

◎もっともシンプルで、もっとも良いポーズを選んだのだ。

11)Debout, le regard droit, en cheveux; et sa robe

◎立ったまま、視線はまっすぐに、帽子もかぶらずに。そして、彼女のドレスは、

(訳注)

・en cheveux:昔の表現で、「女性が帽子もかぶらずに」

・robe:ドレス、ワンピース、法服、ワインの色

12)Est longue juste assez pour qu’elle ne dérobe

◎いたずら好きな足の、かわいらしい先端が、ちょうど(ドレスで)半分だけ隠れる長さなのです。

(訳注)

・elle:robe

・dérobe:見えなくする、かくまう、こっそり盗む

13)Qu’à moitié sous ses plis jaloux le bout charmant

(訳注)

・plis:折り目、ひだ、プリーツ、しわ、髪の癖、習慣

・bout:端、先、終わり、切れ端

14)D’un pied malicieux imperceptiblement. 

(訳注)

・malicieux:からかい好きな、いたずらな

・imperceptiblement:かすかに、知覚できないほどに

 いかがでしたでしょうか。いつものことですが、どうか翻訳の拙さはご容赦いただければと思います。この詩の「音」から伝わる躍動と、それによってかき立てられる明るく幸せに満ちたイメージを楽しんでいただければ幸いです。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

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