第79回 ジャック・プレヴェール 「一途な女性」

第79回 ジャック・プレヴェール(Jacques Prévert) 「一途な女」(Fille d’acier)

 皆様こんにちは、本日も当ブログにお立ち寄りいただき、誠にありがとうございます。

 本日はジャック・プレヴェールの「一途な女性」という詩を紹介します。正直、ちょっと痛々しいのですが、フランス語の単語や文法はシンプルですので、肩の力を抜いてお楽しみいただけると思います。それではどうぞ。◎の部分で和訳を添えます。

<引用はじめ>

FILLE D’ACIER

1)Fille d’acier je n’aimais personne dans le monde

◎私は一途な少女。この世で誰も愛さなかったわ、

(訳注)
・d’acier:鋼鉄の、堅固な、はがねのような、cf.)cœur d’acier:(古い表現で)無情の人

2)Je n’aimais personne sauf celui que j’aimais

◎一人の男を除いて。

3)Mon amant mon amant celui qui m’attirait

◎愛するあなた、私を魅了したあなた。

(訳注)
・attirer:惹きつける、引き寄せる、人を魅了する、(注意・関心を)ひく。

4)Maintenant tout a changé est-ce lui qui a cessé de m’aimer

◎いま、全てが変わってしまったわ。私を愛さなくなったのは、彼のせいかしら?

(訳注)
・cesser de:~するのを止める。

5)Mon amant qui a cessé de m’attirer est-ce moi?

◎それとも、彼と私が引きつけ合わなくなったのは、私のせいかしら?

(訳注)
・m’attirer:ここではs’attirer(代名動詞)「引きつけ合う」と訳しました。

6)Je ne sais pas et puis qu’est-ce ça peut faire tout ça?

◎分からないわ、でも、それがどうしたというの?そんなことが分かったとしても、何になるの?

(訳注)
・et puis:(話)それがどうしたというの。

7)Maintenant je suis couchée sur la paille humide de l’amour

◎いま私は、愛に飢え、湿った藁の上に寝ているの。

(訳注)
・paille:わら、麦わら、ストロー、(話)取るに足らぬこと、はした金、(金属・ガラス・宝石の)きず、欠点、あら。coucher sur la pailleは「貧困にあえぐ」ですので、paille humide de l’amour「愛の湿った藁」とつなげて「愛に飢え、湿った藁の上に寝ている」と直訳しました。

8)Toute seule avec tous les autres toute seule désespérée

◎他の仲間と一緒にいても独りぼっちで、絶望に打ちひしがれているの。

(訳注)
・toute seule avec tous les autres:他の全ての人々(tous les autre)と一緒なのに、toute seule(たった一人)というのは言語矛盾に思えます。大勢の中での、恋人の喪失感が表現されていると解釈しました。

・désespéré(e):絶望的な、必至の、申し訳ない

9)Fille de fer-blanc fille rouillée

◎私はブリキの少女、錆びついてしまった少女。

(訳注)
・fer-blanc :ブリキ
・rouillée:錆びた、(体力・能力などが)衰えた、錆びついた、(金属のたてる音が)錆びついたような

10)Ô mon amant mon amant mort ou vivant

◎ああ、愛するあなた、恋人よ、生きているのかしら、死んでしまったのかしら。

11)Je veux que tu te rappelles autrefois

◎どうしても、思い出して欲しいの、

(訳注)
・tu te rappelles<se rappeler:思い出す、覚えている。
・autrefois:昔、かつて

12)Mon amant celui qui m’aimait et que j’aimais. 

◎かつて、あなたが私を愛したことを。私があなたを愛したことを。

<引用おわり>

 いかがでしたでしょうか。

 詩のタイトルの一部である「鋼鉄」(acier)や、9行目の「ブリキ」(fer-blanc)、「錆びた」(rouillée)という単語からは、何とも厳しい、寒々しい感じが伝わってきます。

 「痛々しい生き別れ」というテーマでは、プレヴェールの代表作である「バルバラ」(Barbara)があります。バルバラであれば、もう少し「余韻」のようなものもあるのですが、この詩はそうもいきませんね。最後に全文を引用させていただきます。

  本日もお読みいただき、ありがとうございました。

Fille d’acier je n’aimais personne dans le monde
Je n’aimais personne sauf celui que j’aimais
Mon amant mon amant celui qui m’attirait
Maintenant tout a changé est-ce lui qui a cessé de m’aimer
Mon amant qui a cessé de m’attirer est-ce moi?
Je ne sais pas et puis qu’est-ce ça peut faire tout ça?
Maintenant je suis couchée sur la paille humide de l’amour
Toute seule avec tous les autres toute seule désespérée
Fille de fer-blanc fille rouillée
Ô mon amant mon amant mort ou vivant
Je veux que tu te rappelles autrefois
Mon amant celui qui m’aimait et que j’aimais.

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