第101回 “辞書いらず”フランス語 /「テーマ別」ラ・ロシュフコー箴言集 「その他の箴言」(1)

第101回 “辞書いらず”フランス語 /「テーマ別」ラ・ロシュフコー箴言集 「その他の箴言」(1)

 皆様こんにちは、今回も当ブログにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。

 今回は「テーマ別」箴言シリーズ「その他」をご紹介します。今までご紹介してきた、それぞれの各「テーマ」には属さないものです。箴言番号は94、95、96です。いつものように、各「テーマ」の初回は、分類者であるJean-Marie André氏による「巻頭言」からご紹介します。それでは、お楽しみください。

<引用はじめ>

Les autres : On est plus médisant par vanité que par malice

◎その他の箴言:人が他人の悪口を言うのは、悪意からよりも虚栄からである。

(訳注)
・médisant :médire(de~の悪口を言う)の現在分詞。(形容詞/名詞で)口の悪い(人)、
悪口を言う(人)
・vanité :虚栄心、うぬぼれ、見栄
・malice:①いたずらっ気、からかい ②(古い表現で)悪意

(94)Les grands noms abaissent, au lieu d’élever, ceux qui ne savent pas les soutenir.

◎偉大な名声を維持すること保つことを知らない人々は、その名声を高めるどころか、失墜させられてしまう。

(訳注)
・grands noms:名声
・abaissent<abaisser:下ろす、下げる、低くする、(文学的表現で)人を失墜させる
・au lieu de:~の代わりに
・élever:上げる、高くする、建てる、育てる、(精神などを)高める、高尚にする、引き上げる
・savent<savoir:知っている、~できる
・soutenir:維持する

➡日本にも、「勝って兜の緒を締めよ」と言うことわざがありますね。ひとたび名声や高い評価を得たとしても、それを維持する努力を怠ってはいけない、、、耳の痛い話ですね。

(95) La marque d’un mérite extraordinaire est de voir que ceux qui l’envient le plus sont contraints de le louer.

◎並外れた功績を持つ人々のしるしは、そのような功績を最もねたむ人々でさえ、その並外れた功績を称賛してしまうところを目の当たりにすることである。

(訳注)
・marque:目印、跡、あざ、(de~を示す)印、商標・ブランド、スコア
・mérite :功績、手柄、ほめるべき点、長所
・extraordinaire :驚くべき、異常な、並外れた、けた外れの、(話)素晴らしい
・l’envient :envierうらやむ、ねたむ。”l”はun mérite extraordinaire
・être contraints de ~:~することを余儀なくされる、(contraint:ぎこちない、堅苦しい)
・le louer:louer「称賛する」「借りる」

➡偉大な功績を持つ人は、それをねたむ人でさえ、その功績を称賛せずにはいられない、ということですね。偉大な功績ではなく、「ちょっとした功績」の場合は、それをねたむ人は、「ねたむだけで称賛はしない」ということもある、ということが前提になっていると思います。

 ちょっと入り組んだ内容ですね。具体的なイメージは湧かないのですが、ラ・ロシュフコー自身が、そのような場面に遭遇したのでしょう。

(96)Tel homme est ingrat, qui est moins coupable de son ingratitude que celui qui lui a fait du bien.

◎ある男が恩知らずであったとしても、その恩知らずに恩恵を与えた人に比べれば罪は軽い。

(訳注)
・tel:そのような
・ingrat:恩知らずな、苦労のしがいのない、魅力のない
・coupable de:罪のある、(de~の)罪を犯した、(行為・意図などが)非難されるべき
・ingratitude :忘恩、忘恩行為 ex.payer(人)de~「~の恩義に忘恩で報いる」
・fait du bien:faire du bien「いい気持ちだ」「(薬などが)効く」「(人に)尽くす」

➡これは何とも難しい言い回しですね。「そのような人間は」で翻訳し始めると、袋小路にはまってしまいます。グルグルと目が回るというか、循環するというか。

 理解のために、最初の「Tel homme」を「人間A」とします。次に、この「人間A」と比べられているceluiを「人間B」とします。

 すると、まず冒頭で「人間Aは恩知らずである」となり、次に、「人間Aはその忘恩にの点において人間Bよりもmoins coupable(=罪が軽い)」とされています。次に、「人間Bは人間Aに恩恵を与えている人である。」とされています。

 これらに基づき直訳すると、「人間Aは恩知らずだが、人間Aに恩恵を与えた人間Bに比べれば、その忘恩の度合いに関し、人間Bよりも罪が軽い」となります。

 逆に端的に表現すれば、「恩知らずに恩を施した側の方が、その恩知らずよりも罪が重い」ということになります。ちょっと突き放した、冷たい感じのする箴言ですね。

<引用おわり>

 いかがでしたでしょうか。本日もお読みいただき、ありがとうございました。

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