第18回 名詩でフランス語上達 ・ ヴェルレーヌ「よく見る夢」
こんにちは、ぱすてーるです。今日も当ブログをお読みいただき、ありがとうございます。
1)ヴェルレーヌ 「よく見る夢」
本日は再び、フランス詩の紹介に戻りたいと思います。ヴェルレーヌのMON RÊVE FAMILIER(よく見る夢)を紹介します。ある映画(Youtubeでも抜粋紹介)も絡んできます。
第1回ブログでご紹介した、私が学生時代にホームステイしたファミリーとの食後の団らんの際に、ステイ先のマダムから茶化された際に言われた次の詩句の「ネタバレ」になります。”Est-elle brune, blonde ou rousse? – Je l’ignore.”(“彼女の髪の色は茶色、ブロンド、それとも赤毛?それは分からないんだ。” )
ヴェルレーヌは、1894年に”Prince des Poètes”(Livre de Poche “La bonne chanson”巻末紹介文)に選ばれています。また、第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦時の暗号にも使われるなど、押しも押されぬフランスを代表する詩人です。
でも、同じくフランスを代表する、近寄りがたくそびえ立つボードレール(こちらもヴェルレーヌと同様に大ファンです)に比べると、はるかに近寄り易い存在と思います。フランス人にとってだけでなく、人類の宝物、世界遺産とさえ表現したいくらいです。
少し大袈裟なことを言ってしまいました。「そんなこと言ったって、所詮、フランスかぶれの戯言(ざれごと)ではないか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。そう思われても仕方ないとは思います。
でも、この詩は、フランスではなくベルギーの1991年の映画「トト・ザ・ヒーロー」(Youtubeでも短い紹介動画が見られます)の中で、主人公が物思いにふけりながら口にする詩でもあるのです。つまり、映画で引用されるに値するだけの価値もあると思うのです。
また、この詩は、フランスの出版社le cherchi midi éditeur社の”LES CENT PLUS BEAUX SONNETS DE LA LANGUE FRANÇAISE(フランス語の名ソネット100選/選者:Marie LETOURNEUR)の中にも含まれています。女性の選者にも選ばれており、上述の映画での引用と併せて考えれば、この詩が正に、押しも押されぬ名詩であることの証左と言えるのではないでしょうか。
2)詩の構成:
以下、フランス語の原文に続き、私の翻訳を付します。本当に美しいソネット(14行詩)であり、各詩行の末尾の押韻だけでなく、各行が12の母音(いわゆるアレクサンドラン)で構成されています。
文法的には、11行目の”la Vie exila”のexilaがexliler(追放する)の単純過去形になっている点を除けば、動詞の時制は全て現在形です。あとは単語の「大まかな」意味さえ分かれば、詩のイメージを自由にふくらませる楽しみがあるのでは、と思います。(この詩に関しては特に、翻訳の正しさを競うのは野暮とさえ思えます。)
本音を言えば、全ての詩について言える訳ではありませんが、この美しい詩に関しては特に、翻訳さえも原文の美しさを楽しむに際して差し障りがあり、控えておきたいとさえ思います。
なお、押韻確認のため、各行の頭に通し番号を付しました。行数のペアで申し上げますと、1-4, 2-3, 5-8, 6-7, 9-10, 11-13, 12-14で押韻されています。また、各行とも12の母音で構成されています。男の戯言と笑われるかもしれませんが、女性の選者にも選ばれた、ため息の出るほど美しい詩です。
3)引用:
<引用はじめ>
MON RÊVE FAMILIER(よく見る夢) Paul VERLAINE
1)Je fais souvent ce rêve étrange et pénétrant
わたしは、次の奇妙で胸を締め付ける夢を良く見ます。
2)D’une femme inconnue, et que j’aime et qui m’aime,
名も知らないけれども、愛し愛される女性の夢です。
3)Et qui n’est, chaque fois, ni tout à fait la même
その女性は、夢に出てくる度に、全く同じという訳でもなく、
4)Ni tout à fait une autre, et m’aime et me comprend.
かといって、全く別の女性という訳でもないのですが、私を愛し、理解してくれるのです。
5)Car elle me comprend, et mon cœur transparent
なぜなら、彼女は私を理解してくれるため、私の心は
6)Pour elle seule, hélas! Cesse d’être un problème
彼女のためだけなら、透き通り、抱えている問題が雲散霧消するのです!
7)Pour elle seule, et les moiteurs de mon front blême,
私の青ざめた額の汗を乾かしてくれるのは、
8)Elle seule les sait rafraîchir, en pleurant.
彼女だけなのです、涙と共に。
9)Est-elle brune, blonde ou rousse? – Je l’ignore.
彼女の髪の色は、褐色?ブロンド?それとも赤毛なのかは分かりません。
10)Son nom? Je me souviens qu’il est doux et sonore
彼女の名前?思い出せるのは、やさしく響きの良い名前であったことです。
11)Comme ceux des aimés que la Vie exila.
ちょうど、世間が引き裂いた恋人たちの名前のように。
12)Son regard est pareil au regard des statues,
彼女の視線は彫像のようであり、また、
13)Et, pour sa voix, lointaine, et calmes et grave, elle a
彼女の声は、遠くで響くような、重々しく穏やかなものであり、
14)L’inflexion des voix chères qui se sont tues.
押し黙るような、愛おしい声の抑揚を持っていたのです。
<引用おわり>
いかがでしたでしょうか。「彼女」が誰なのか、「正解」を求めるのはしばらく休み、自由に想像をふくらませて楽しみたいものです。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。