皆様こんにちは、本日もお読みいただき、ありがとうございます。
本日は、ユーゴー「への」ラブレターをご紹介します。ユーゴーと50年にわたる親交のあったジュリエット・ドルーエ(JULIETTE DROUET)から、ユーゴーに宛てられたものです。ユーゴーの『レ・ミゼラブル』のコゼットの幼少期は、このドルーエをモデルにしたともいわれています。
英雄や文豪みずからが書いたラブレターというのは、それだけで関心をひくものと思います。でも逆に、英雄や文豪に対して送られたラブレターを目にする機会は、余りないのではないでしょうか。
文豪のラブレターが秀逸であるのは誰でも予想できると思います。でも、文豪が愛した女性からその文豪へ宛てられた手紙は、もしかしたら月並みなのか、それとも文豪のそれに勝るとも劣らない秀逸なものなのか。果たしてどちらでしょうか。それでは、お楽しみください。◎部分が和訳です。
<引用はじめ>
JULIETTE DROUET
A mon bien-aimé,
Je t’ai quitté, mon bien-aimé. Que le souvenir de mon amour te suive et te console pendant notre séparation.
◎愛しい貴方へ
私はあなたから離れました。どうか私の愛の思い出が、あなたについてゆき、私達が離れ離れのあいだ、貴方をなぐさめてくれますように。
(訳注)
・bien-aimé:最愛の人
・Que (le souvenir de mon amour te )suive:Queは命令・願望・憤慨を表す。suiveはQueに対応する接続法現在形。ここでは「どうか~してください」という願望を表しています。
Si tu savais combien je t’aime, combien tu es nécessaire à ma vie,tu n’oserais pas t’absenter un seul moment, tu resterais toujours près de moi, ton cœur contre mon cœur, ton âme contre mon âme.
◎もし貴方が、私がどんなにあなたを愛し、私の人生に貴方が必要であるかを分かって下さるのであれば、貴方が敢えて私から離れるなどということは片時もないことでしょう。そして貴方は、いつも私のそばにいらっしゃり、お互いの心と魂はふれあうのです。
(訳注)
・savais:si tu savais=従属節の半過去。「知っていたらなら」。続く主節のtu n’oserais pas(=条件法現在現在)とセットで、「事実に反する仮定」(=実際には知らない)。
続くoserais(敢えて~する), resterais(とどまる)も同様に、従属節「si tu savais」に対応している。
・t’absenter<s’absenter de~:~から離れる
・près de ~:~のそばに
・ton cœur contre mon cœur:「無冠詞名詞 + contre +無冠詞名詞」で「ぴったりと」
(例:marcher épaule contre épaule「肩を寄せて歩く」 Ils dansaient l’un contre l’autre「二人はぴったりくっついて踊っていた。」)
Il est onze heures du soir. Je ne t’ai pas vu. Je t’attend avec bien de l’impatience, je t’attends toujours.
◎いまは夜の11時です。あなたの姿を見ていません。私は待ちきれない思いであなたを待っています。いつもあなたを待ち続けています。
(訳注)
・impatience:待ちきれない思い、いら立ち、忍耐のなさ。
Il me semble qu’il y a un siècle que je ne t’ai vu, qu je n’ai contemplé tes traits,que je ne me suis enivrée de ton regard.
◎あなたを見なくなってから、あなたに見とれなくなってから、あなたの視線に酔いしれなくなってから、1世紀もの時が流れたような気がいたします。
(訳注)
・contemplé<contempler:~に見入る、見とれる。
・ traits:(複数形で)顔立ち、線、線描、特徴、(文学的表現で)辛辣なことば、毒舌。
・me suis enivrée<s’enivrér de~: de~に酔う
Pauvre fille que je suis, je ne te verrai probablement pas ce soir. Oh! Reviens, mon âme, ma vie, reviens.
◎私は哀れな女です。おそらく今夜、私はあなたにお会いすることはないでしょう。ああ、戻ってきてください、貴方は私の魂、私の命なのですから!
(訳注)
・Pauvre:(名詞の前で)哀れな、気の毒な、かわいそうな。
・fille que je suis:que は感嘆表現「なんと~」。
Si tu savais comme je te désire, comme le souvenir de cette nuit me rend et impatiente de bonheur. Combien je désire m’enivrer de ton haleine et de tes baisers que je savoure en extase sur ta bouche!
◎もし貴方が、私がどれほど貴方を欲しているかをご存じだったなら。どれほを今晩の思い出により私が自制心を失い、幸福で待ちきれない状態になっているかを知っていたなら。どれほど私があなたの吐息に酔いしれることを欲し、貴方の接吻をうっとりと味わうことを欲しているのを知っていたなら!
(訳注)
・Si tu savais :現在の事実に反する仮定。「もし貴方が~を知っていたならなら」
・comme:感嘆表現「何と~だろう」(=英語のhow)
・me rend<rendre:「rendre+直接目的語A+属詞B」で「AをBにする。」英語のmake A B。
属詞Bに相当するのがfolleとimpatiente。
・folle<fou:気の狂った、自制心を失った、気違いじみた、常軌を逸した、大変な、ひどい、調子の狂った。
・impatiente :待ちきれない、じりじりした、こらえ性のない、性急な
・m’enivrer de~:~に酔う
・haleine:息、呼吸
・savoure<savourer:じっくり賞味する、味わう。
・ en extase:うっとりとしながら (extase:うっとりすること、恍惚)
・ bouche:口
Mon Victor, pardonne-moi toutes mes folies. C’est encore de l’amour. Aime-moi. J’ai bien besoin de ton amour pour me sentir exister. C’est le soleil qui ranime ma vie.
◎私のVictor、私の愚行の全てをお許しください。それらは愛ゆえのものなのです。私を愛してください。私が存在していることを感じるためには、貴方の愛がどうしても必要なのです。それは、私の命を蘇生させる太陽なのです。
(訳注)
・folie:狂気、錯乱、狂気の沙汰、愚かな言動、莫大な出費、高じた情熱、マニア
・ranime(ranimer:(気を失った人を)蘇生させる、生気を取り戻させる、(怒り・思い出・消えかけた火を)再びかきたてる。cf.animer:活気づける、活発にする、盛り上げる、生気を与える、指導する、推進する、駆り立てる、鼓舞する、勇気づける。
Je vais me coucher. Je m’endormirai en priant pour toi. Le besoin que j’ai de ton bonheur me donne de la foi.À toi ma dernière pensée,À toi tous mes rêves.
◎私は床に就きます。貴方のために祈りながら眠ります。あなたが幸福であって欲しいという思いは、私に信仰心を与えてくれます。私からの最後の思いと、私のすべての夢を、貴方へ。
(訳注)
・me coucher<se coucher:寝る、床につく、横になる、伏せる、(太陽などが)沈む、(sur~の上に)身をかがめる、倒れる、屈する。
・m’endormirai<s’endormir:寝入る、眠り込む、居眠りする、(文学的表現で)苦痛などが鎮まる、和らぐ、注意力などが鈍る。
<引用おわり>
いかがでしたでしょうか。
「Combien je désire m’enivrer de ton haleine et de tes baisers que je savoure en extase sur ta bouche!」の部分などは、自分で訳を書いていて気恥ずかしくなるほどです。男性の英雄や文豪による記述であれば、歯が浮くような感じを避けられないと思います。
ところが、一歩引いて「客観的に」この文章を読んでみると、女性による記述であるせいなのか、不思議とそのような「歯の浮くような」感じが減る気がします。これが一般化できることなのか、あるいはJULIETTE DROUETならではの表現によるものなのかは、もう少し彼女のラブレターを複数読む必要がありそうです。
ブログ冒頭の「文豪が愛した女性からその文豪へ宛てられた手紙は、もしかしたら月並みなのか、それとも文豪のそれに勝るとも劣らない秀逸なものなのか。」に関する答えは、もう明らかではないでしょうか。
文豪に負けず、劣らず、熱烈で読みごたえのある恋文でした。さすがは、ユーゴーに「惚れられた」女性だけのことはありますね。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。