第12回 フランス語の実用性(2)

第12回 フランス語の実用性(2)

皆様こんにちは、ぱすてーるです。本日もお読みいただき、ありがとうございます。

前回のブログ「フランス語の実用性(1)」では、フランス語の実用性の考え方が人によって異なることに触れました。このため今回のブログでは、フランス語の「実用性」をなるべく客観的に把握するために、話者人口や公用語人数という数値基準で他言語と比較してみようと思います。

少し長くなってしまいますので、先に結論を申し上げます。フランス語の利用者数は、調査機関によっても異なり、220~300百万人と幅がある模様です。ざっくり250百万人くらいと見れば「少なすぎず、多過ぎず」なのでは、と思います。そしてこの人数は、学術(明治時代以降の日本への影響)や芸術、科学技術面での影響を考慮しないとしても、それなりのインパクト、つまりフランス語の実用性を物語るのではないか、というものです。

1)文部科学省による調査データ:

日本の文部科学省による「世界の母語人口(上位20言語)」調査データによれば、フランス語の「母語」(※1)話者は約72百万人(16位)とされています。同じ母語話者人数の比較では、英語の400百万人、中国語の885百万人(1位)、英語の400百万人(2位)、日本語の125百万人(9位)に比べると、少ない人数になっています。

(※1)母語の定義は、以下「ブリタニカ国際大百科事典」から引用させていただきます。

<引用はじめ>

ある人が幼児期に周囲の人が話すのを聞いて自然に習い覚えた最初の言語。日本人が日本語を母語とする場合などは母語と母国語が一致するが,日本語を母語としながら日本国籍を持たない場合や,政治的・地理的独立国家を持たないイディッシュ語やバスク語を母語とする人々の場合のように母語が母国語と一致しないことも少なくない。特に,多民族・多言語国家では母語のほかに第2,第3の言語を習得し,二 (多) 言語使用者となる人が多い。また,戦争中に中国に残された孤児のように,幼児期に獲得した母語 (日本語) を喪失し,別の言語 (中国語) が第一言語となることもある。

<引用おわり>

フランス語圏の西アフリカ諸国の人々は、「母語」人口としてカウントされていないと思われます。アフリカ諸国には部族語が多いせいもあると思います。日本の場合はほぼ、母語=公用語ですので、「母語」で比較する方がランキングが上がります。「母語」ではなく「公用語」という基準で比較すると、次のランキングの様に、また違った世界が見えてきます。

2)ソフィア・外国語研究協会による調査:

ソフィア・外国語研究協会による調査による「世界言語人口ベスト20」ランキングの中では、母語話者数と公用語話者数とでそれぞれランキングを実施しています。このうち英語、中国語、フランス語、日本語の位置づけは次のようになっています。

①母語話者数による比較:

母語話者数比較では、中国語(1位/1,000百万人) → 英語(2位/350百万人) → 日本語(9位/120百万人) →フランス語(11位/70百万人)の順になっています。

②公用語話者数による比較:

次に公用語話者数比較では、英語(1位/1,400百万人) → 中国語 (2位/1,000百万人) →フランス語 (6位/220百万人) → 日本語 (11位/120百万人) の順になっています。

以上より、「母語話者数」で見たフランス語人口70百万人は、上記1)の文部科学省による調査データ(72百万人)とほぼ同じですが、「公用語話者数」で見ると3倍以上の220百万人に増加しています。なお、「母語話者数」や「公用語話者数」という基準の他にも、言語学用語としての「リングワ・フランカ」という基準もある模様です。以下、WIKIPEDIAからの引用です。

<引用はじめ>

原義:本来のリングワ・フランカは、実際にレヴァント地方で用いられた、ロマンス諸語、ギリシャ語、アラビア語の混成語である。特に典型的なサビール語(Sabir)は、イタリア語を土台に、アラビア語、ペルシャ語、ギリシャ語、フランス語などの単語や表現が混交したもので、近代前期に地中海地域の交易用に用いられた。フランスの劇作家モリエールの17世紀の戯曲『町人貴族』でリングワ・フランカの台詞が登場する。

現代的な用法:現代の言語学用語としてのリングワ・フランカは、広く外交や商取引で使われる通商語、あるいは共通語という意味で用いられる。ピジン言語やクレオール言語といった複数の言語の混合によって成立することもあるが、ある地方で政治的・経済的に大きな影響を持つ言語がリングワ・フランカとして用いられる場合もある。(中略) ラテン語に代わって、およそ17世紀頃から20世紀に英語にその地位を取って代わられるまで、ヨーロッパでリングワ・フランカおよび外交語としての地位にあったのがフランス語であった。これは英国においてはノルマン・コンクエストにより支配者階級がフランス語の話者であった事、イタリアやドイツは国内統一、ひいては言語の統一がフランスよりも遅れていたため、フランス語の地位が高まったためである。現在でも多くの旧フランス植民地で話されている。現在でも万国郵便連合では唯一の公用語である。国際連合では6つの国連公用語のひとつであるが、歴代の国連事務総長はいずれも英語と並びフランス語も堪能な人物であり、この2言語が使えることは国連事務総長に選ばれるための事実上の必要条件といわれる。フランスはフランス語を国際語として使用することを推進しており、フランス語をリングワ・フランカとする諸国の機構であるフランコフォニー国際機関も活動している。

<引用おわり>

ソフィア・外国語研究協会によれば、話者数に、国際貿易における影響力や上述の「リンガ・フランカ」としての地位などを加味して総合的な観点から「世界で最も影響力のある言語」というランキングも発表されているとのことです。この「世界で最も影響力のある言語」ランキングによると、世界には6,000以上の言語が存在しているそうです。600ではなく6,000であり、その内3割は話者数が1,000人以下とも言われているそうです。その6,000以上ある言語のうち、最も影響力のある言語は何語でしょうか。『リスト25.com』のランキングによると、上位6言語は順に、英語、フランス語、スペイン語、アラビア語、中国語(マンダリン)、ロシア語でした。

皆様、どこかでご覧になったことがある顔ぶれだとは思いませんか?そう、これら6言語は全て、国連の公用語です。7位がポルトガル語、8位がドイツ語で、9位に日本語がランキングされています。

3)フランコフォニー国際機関(OIF)による調査データ:

フランコフォニー国際機関OIF(※2)によれば、2019年3月時点の世界のフランス語人口は約300百万人、2070年には477百万人、多い場合は747百万人にも達するとのことです。アフリカでの人口増加による影響です。「フランス語シンパ」による推計ですから、現状認識(300百万人)も、将来予想(477~747百万人)も、ちょっと多めの感じがするかもしれません。

(※2)Organisation internationale de la francophonie:世界中の様々な文化圏に属する、民主主義や人権といった普遍的な価値観とフランス語とを共有する国・地域の総体であるフランコフォニーの名を冠した国際機関。2016年現在、加盟国54、準加盟国4、オブザーバー26(資格停止中1)の計84の国・地域が参加。必ずしもフランス語圏に限定されず、英語圏やポルトガル語圏(カーボヴェルデやサントメ・プリンシペ)、アラビア語圏(チュニジアやモロッコなど)の国もあるため「フランコフォニー国際機関の加盟国=フランス語圏」とは必ずしも言い切れない模様です。また、近年ではOIFの形骸化の批判もあるようです。

<OIFの沿革>

OIFの前身は、1970年に設立されたACCT(Agence de coopération culturelle et technique)。「本国」フランス自体は、この動きを新たな植民地政策につながりかねないとして積極的に関わらなかったようです。その後、カナダのケベック州の仲介などでフランソワ・ミッテラン大統領期の1986年に、第1回サミット開催を引き受けてから積極的に参加。その後1998年~2005年にはフランコフォニー政府間機関(Agence intergouvernementale de la francophonie、AIF)と改組され、2005年のフランコフォニー閣僚会議で現在のフランコフォニー国際機関(Organisation internationale de la francophonie、OIF)へと改組されています。

4)WIKIPEDIAによる調査データ:

2014年時点で、フランス語を公用語としている人口は274百万人とされています。

5)筑波大学グローバルコミュニケーションセンターによる調査:

世界のフランス語人口は約200百万人、常時使用者数は123百万人とされています。

6)Ethnologue(※3)による調査:

エスノローグの”What are the top 200 most spoken languages?””Top 10 most spoken languages, 2020”によれば、フランス語人口は277百万人で第5位となっています。単純に「話者数」ですから、フランス語を母語とする人口(文部科学省データの70百万人、ソフィア外国語研究協会の72百万人)の3倍以上となっています。

ちなみに1位は英語で1,268百万人、2位は中国語(マンダリン)で1,120百万人、3位がヒンディー語で637百万人、4位がスペイン語で538百万人となっています。日本語は126百万人で13位となっています。

(※3)エスノローグ(Ethnologue: Languages of the World, 民族語の意)はキリスト教系の少数言語の研究団体国際SILの公開しているウェブサイトおよび出版物。2005年に発表された第15版では、世界の言語6912について話者数、分布、方言、系統、聖書の翻訳の有無などを掲載している。

まとめ:

かなり長くなってしまい、恐縮いたします。上記1)から6)では、フランス語の「実用性」をなるべく客観的に把握するために、話者人口や公用語人数という数値基準で他言語と比較してみました。果たして、比較の基準としては、「話者人口」「公用語人口」「母語」「母国語」など、どれを基準にすれば良いでしょうか。

ここで身近な話で考えてみたいと思います。日本では、ある人が幼少期から自然に使っている言語という意味での「母語」=日本語が、そのまま「出身国(母国)の言葉」=母国語=日本語として捉えられることが多いと思います。これが、日本語では「母語」と「母国語」を区別しない傾向がみられる一因でもあるようです。

ところが、今まで見て参りました通り、世界的に見た場合、母語と母国語とが一対一で対応している国、言い換えますと、言語と国とが一対一で対応している国は稀であることが分かります。このため、母語と母国語が一対一で対応していない大半の国との比較を可能にするためには、やはり、母語人数ではなく、話者人口や公用語人数での比較が妥当なのだと思います。

そうしますと、フランス語の公用語話者数は、少なく見積もって123百万人(上記筑波大学グローバルコミュニケーションセンターによる常時使用者数)、他の調査では220百万人(上記のソフィア・外国語研究協会の調査データ)、274百万人(ウィキペディアの調査データ)、277百万人(Ethinologueの調査データ)、最大で300百万人(上記OIF)くらいになるものと思います。まあ、220~300百万人の間でざっくり250百万人くらいとみなしておけば、あながち「少なすぎ」もせず「膨らませすぎ」でもないように思います。

250百万人という数字は、それ自体大きいですが、これに学術(明治時代以降の日本への影響)や芸術、科学技術面での影響も考慮すれば、フランス語の「実用性」については、迷いようもない事実だと言えると思います。

さあ、皆様も是非一緒に、フランス語に「惚れて」「上達」して行きましょう!!!

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

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