第94回 “辞書いらず”フランス語 /「テーマ別」ラ・ロシュフコー箴言集 ・「善と悪」
皆様こんにちは、今回も当ブログにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
今回は、ラ・ロシュフコー「テーマ別」箴言シリーズとして、「善と悪」をご紹介します。箴言番号は186、203、206です。テーマ初回は、分類者のJean-Marie André氏による「巻頭言」からご紹介します。
<引用はじめ>
Le bien et le mal : il y a des héros en mal comme en bien
◎善と悪:良い英雄もいれば、悪い英雄もいる。
(訳注)
・en mal:悪く
・en bien:良いように (例:changement en bien「好転、改善」)
(186)On ne méprise pas tous ceux qui ont des vices; mais on méprise tous ceux qui n’ont aucune vertu.
◎人は、悪癖を持つ全ての人々を軽蔑するわけではないが、美徳のかけらもも持たない人々の全員を軽蔑する。
(訳注)
・mépriser:①軽蔑する ②無視する
・vice(s):悪徳、悪習、悪癖、欠陥、不備
・aucun(e):ひとつ(ひとり)もない、どれも~ない、誰も~ない
・vertu:美徳
➡これは自明といえば自明のことですね。誰しも程度の差こそあれ「悪癖」を持つわけですので、それを持つ人々が全員「軽蔑」されていたら、世の中の大半の人は軽蔑の対象になってしまいます。
一方で、「美徳」のかけらも持たない人がいたらどうなるでしょう?そんな人とはわずかな時間であっても一緒に居たくないと思うのが自然、つまり「軽蔑」の対象になると思います。このケースは余りないとは思いますが、もしかしたらラ・ロシュフコーの実体験だったのかもしれません。
(203)Le vrai honnête homme est celui qui ne se pique de rien.
◎真のオネットムは、一切の自慢をしない人間である。
(訳注)
・honnête homme :①正直な人 ②(17世紀貴族社会で理想とされた)紳士、オネットム(完成された趣味・教養・作法の持ち主)
・piquer:つく、刺す、突き刺す、咬む、刺激する。「se piquer」 ①自分の~を刺す ②自分で注射する ③(とげなどが)刺さる ④(ワインなどが)酸っぱくなる ⑤点々としみができる ⑥腹を立てる、傷つける ⑦(文学的表現で)de~を自慢する、得意がる。
➡これは、「言うは易く行うは難し」の典型だと思います。仙人の域に達した人でないことには、「一切の自慢をしない」というのは難しいと思います。たとえ、「完成された趣味・教養・作法の持ち主」であるオネットムであっても。
(206)C’est être véritablement honnête homme que de vouloir être toujours exposé à la vue des honnêtes gens.
◎正直な人々の視線に常にさらされることを望むということは、紛れもないオネットム(紳士)の証である。
(訳注)
・véritablement:本当の、実際の、現実の、真の、本物の、(名詞の前で)まったくの、紛れもない
・exposé à ~:①~に向いた、②~にさらされた、危険(困難に)直面した ③展示された
・vue :①視覚、視力、目 ②(de~を)見ること ③視線、眼差し ④眺め、景観 ⑤(風景・建物などの)写真、絵 ⑥見解、見方、考え ⑦(複数形で)意図、計画
・honnêtes gens:honnête hommeと敢えて区別するために「honnête」(正直な、誠実な、 良心的な、きちんとした、まともな、適当な、まずまずの)を「正直な」と訳しました。
➡今ひとつ良くわかりませんが、オネットムたるものは、「正直な人々の視線にさらされても、恥ずかしくない身なりや行動をすべきだ」という意味が込められているのかもしれません。
<引用おわり>
いかがでしたでしょうか。フランス語学習の点からは、時制は全て現在形、「オネットム」を除けば難しい表現や単語も少なく、近づき易い内容だったと思います。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。