第30回 歴史の通念 ~ガリア人は野蛮だったのか~
2021.1.31
皆様こんにちは、ぱすてーるです。今回もお読みいただき、ありがとうございます。
今回取り上げますのは、古代から現代にわたる150個の通念を「小話」的に見直した「150 IDÉESS REÇUES SUR L’HISTOIRE ~Par la rédacion de Historia~」 (”歴史の通念150~HISTORIA編集~”出版社:POCHET社、出版年:2011年、執筆者:HISTORIA編集代表Pierre BARON、記事執筆者:Olivier Tosseriほか)です。その中から、「ガリア人は恐ろしいほど野蛮だったのか」という記事を紹介します。
結論を先取りしますと、「ガリア人は野蛮ではなく、ある面ではローマ人よりも進んでいた。ガリア人が野蛮であるとのイメージは、ギリシア人やローマ人が自分たち以外のものはみな、野蛮と考えていたことによる。」とされています。
Historiaは、学者や研究者からの寄稿を基に歴史上の「通念」を見直している雑誌の模様です(詳しくは、「historia.fr」を検索してみてください)。堅い研究書の様に、大量の注釈や出典に関する注記はなく、150のテーマに関し数ページで「小話」的に通念を見直す形をとっています。ガリア人に関しては、「通念」と「実態」が以下のように整理されています。以下、引用させていただく和文は私の翻訳ですが、「フランス語上達」のために、原文のフランス語と該当ページも付させていただきます。
<引用はじめ>
(通念)
・ガリア人は恐ろしいほど野蛮で不潔、イノシシ肉を生で食べ、文字を知らず、生贄を実施していた。
Les Gaulois sont d’horribles barbares.Ils ne lavent pas, mangent du sanglier cru,ne connaissent pas l’écriture et, en plus, pratiquent le sacrifice humain.(p.49)
(実態)
・ガリア人は身だしなみと清潔さに配慮し、(現代の)スラックスの原型である股引きズボンを着用していた。彼らは灰と動物の脂で作った石鹸で髪を洗い、豚肉を塩漬けして保存し、暦を作るために幾何学や天文学に関心を寄せ、外科手術を実施していた節がある(当時のガリア人社会で第一級の役割を果たしていたドルイド僧の墓からは、手術用のメスが見つかっている)。
Les Gaulois accordent une grande importance à leur apparence et à la propreté.Ils adoptent le savon à base de cendres et de suif utilisé essentiellement pour laver leur longue chevelure. Ils pratiquent la salaison des aliments pour les conserver, en particulier de la viande de porc.Les druides,qui jouent un rôle de premier plan dans la société gaulise, pratient la médecine et la décourverte dans leurs tombes de scalpels et de lancettes laisse supposer qu’ils avaient des notions de chirurgie.
(訳注)
・accordent à ~:accorder à ~~に与える、~に適する
・de premier plan:一流の、最重要の
<引用おわり>
「通念」と「実際」には、大きな隔たりがあると思います。確かに、「通念」に関しては、映画の『グラディエーター』(原題:Gladiator/2000年に公開された米国の歴史映画。監督はリドリー・スコット、主演はラッセル・クロウ。第73回アカデミー賞および第58回ゴールデングローブ賞で作品賞を受賞)で映し出されるような、髪の毛がボサボサで手に石斧を持ついかにも野蛮人)で映し出されるような映像によって、「通念」が浸透してしまう傾向があると思います。執筆者の方は、その理由について、次のように述べています。
<引用はじめ>
ガリア人の「野蛮」イメージは、古代のテキストから来ている。ギリシア人は、ケルト人によるデルポイ(Delphes)の略奪(紀元前279年)を記憶している。ローマ人は、ケルト人によるローマ占領(紀元前390年)を記憶している。
Leur mauvaise réputation leur vient des textes anciens.Les Grecs avaient le souvenir du sac de Delphes en 279 av.J.-C et le Romains celui de la prise de Rome par les Celtes en 390 av.J.-C.
(訳注) sac:略奪
彼らは、ギリシア的でないものや、ローマ的でないものは全て「野蛮」と考えていた。そして、ガリア地方を征服したカエサルは、自らのガリア征服に関する名声を可能な限り引き立てる必要があったに違いないので、歴史的な真実に基づかずに、マンガ風にガリア人の集団的な特徴を想像の産物として描いていたのである。
Ils considéraient tout ce qui n’était as grec ou romain comme barbare.Et César, devant tirer le plus de prestige possible de sa conquête, fit le reste pour laisser dans l’imaginaire collectif des traits qui se prêtent plus à la bande dessinée qu’à la réalité historique.
(訳注)
・devant:devoirの現在分詞。~するに違いない、~しなければならない。
・fit:faireの単純過去。~させる(使役動詞)
・se prêtent à ~:se prêter à ~するのに適する
<引用おわり>
本書では他にも、ガリア人が「野蛮」ではないことの例として、次のことが紹介されています。
・ガリア人の社会は、いくつかの家族から成る部族で構成されていた。
・彼らは王によって統治され、王の周りには戦闘に携わる貴族がおり、貴族が平民(職人・ 農民・奴隷)を指揮していた。
・地中海沿いでは、かなり早い時期に主にギリシア人との間で商業取引が行われていた。
・農業開発も進めており、今日の刈り取り機(コンバイン)の原型のような道具を牛に引かせていた。(当時ローマ人は、未だ半月形の鎌で刈り取りをしていた。)
Ils développent l’agriculture en mettant au point l’ancêtre de la moissonneuse, sorte de grande caisse à roues dentelées tractée par un bœuf, alors que les Romains se servent encore de faucilles.
・ワインの運搬と保存に便利な樽を開発していた。(古代ギリシアやローマで使われていた、取っ手付きの壺=アンフォラよりも便利だった。)
Ils inventent le tonneau plus commode que l’amphore pour le transport et la concervation du vin.
(訳注)
・ancêtre:原型、祖先
・moissonneuse:刈り取り機(コンバイン)
・tracter:牽引する
・se servir de~:~を使う
以上、「歴史の通念150~HISTORIA編」の中から、ガリア人についての記述を紹介させていただきました。テレビや映画を見ていると、ついつい、「固定概念」「社会的通念」に惑わされてしまいますね。本書はそのような「思い込み」の誤りに気づかせてくれる面白い内容だと思います。
他の「歴史の通念150」につきましても、後日紹介させていただければと思います。150ものテーマがありますので、詳細な注記や写真は無いのが少々惜しい点ではありますが、逆に「小話」のような気軽さをもって楽しんでいただけると思います。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。