第73回 ジャック・プレヴェール / 一日目

第73回 ジャック・プレヴェール(Jacques Prévert) 「第一日目」(Premier Jour)
 
 皆様こんにちは、本日も当ブログにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
本日は、ジャック・プレヴェールの「第一日目」という詩をお届けします。詩集「Parole」(1946年)の中の詩です。

 この詩もプレヴェールらしくシンプルであり、映画のスナップショットのような詩ですが、一つだけ他の詩と大きく異なる点があります。何と、「動詞」が使われていないのです。

 使われている単語も本当にやさしいものばかりですので、まずは理屈抜きで一気にお読みいただくことをお勧めします。そして一読いただいた後は、しばし目を閉じてこの詩に描かれた情景に思いを馳せてみてください。

<引用はじめ>
 
1)Des draps blancs dans une armoire

◎たんすの中には真っ白なシーツ

(訳注)
・drap:(多く複数形で)シーツ、ラシャ・毛織物。
・armoire:洋服だんす、衣装戸棚、整理戸棚、キャビネット

2)Des draps rouges dans un lit

◎ベッドのシーツには赤いものが

3)Un enfant dans sa mère

◎母親の胎内には子供が

4)Sa mère dans les douleurs

◎母親は陣痛に耐え

(訳注)
・douleur:痛み、苦痛、(複数形で)陣痛、(精神的な)苦しみ

5)Le père dans le couloir

◎父親は廊下に

・couloir:廊下、通路、ロビー、車線、(陸上競技・水泳の)コース

6)Le couloir dans la maison

◎家の中の廊下

7)La maison dans la ville

◎町の中の一家族

(訳注)
・maison:「家」、家屋、「家族」、一家、家系、会館、会社

8)La ville dans la nuit

◎夜の町

9)La mort dans un cri

◎叫び声と共に訪れた死

10)Et l’enfant dans la vie.

◎そして子供に命が与えられる。

<引用おわり>

 いかがでしたでしょうか。

 母親の「産みの苦しみ」と「死」、それを代償にこの世に誕生した子供の命。詩人の感性と表現力により、生と死が織り成す、命のリレーのイメージが見事に描かれています。

 衛生事情の悪い時代には、「産後の経過が悪くて」母と子が死に別れることもしばしばあった模様です。そのような悲劇を、多くの言葉で表現するよりもはるかに、強烈に印象付ける詩です。

 「動詞を使わない描写」と言いますと、それはちょうど私たちが絵画を見る時と似ています。つまり、鑑賞する時には、絵に描かれている「人」や「もの」が動かない(=静止した)状態で視界に入ってきます。もちろん、被写体が動いている様子を描いた絵画も沢山ありますが、「絵画」の性質上、まずは「静止した」状態で目に入ってくると思います。

 「動詞」を使わないことによって、正にそのような「絵画」のような効果がこの詩にはあらわれていると思います。皆様はどのようにお感じになったでしょうか。

 なお、この詩は現代詩の典型らしく(ipoesie.org/での説明)、押韻もほとんどなく、句読点も最後までありません。よって翻訳も句読点なしとさせていただきました。

 この詩の技法に関する「専門的な」解説は、探せばもっと沢山あると思いますが、本ブログにおきましては、「動詞なしで」書かれたこの詩の雰囲気を味わっていただければと思います。

 最後に、全体を引用させていただきます。本日もお読みいただき、ありがとうございました。

1)Des draps blancs dans une armoire
2)Des draps rouges dans un lit
3)Un enfant dans sa mère
4)Sa mère dans les douleurs
5)Le père dans le couloir
6)Le couloir dans la maison
7)La maison dans la ville
8)La ville dans la nuit
9)La mort dans un cri
10)Et l’enfant dans la vie.

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