第95回 “辞書いらず”フランス語 /「テーマ別」ラ・ロシュフコー箴言集 「善と悪」(2)
皆様こんにちは、今回も当ブログにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
今回は、ラ・ロシュフコー「テーマ別」箴言シリーズ「善と悪」の続きをご紹介します。箴言番号は216、229、238、269です。
<引用はじめ>
(216)La parfaite valeur est de faire sans témoins ce qu’on serait capable de faire devant tout le monde.
◎申し分のない能力とは、他人の視線がなくても、全ての人の前で行い得ることを実施することである。
(訳注)
・parfait(e):完全な、完璧な、(名詞の前で)まったくの、この上なく
・valeur:①価値、値打ち、価格 ②能力、資質、才能、優れた人物 ③(経済)価値 ④有価証券 ⑤時価基準 ⑥ (方法などの)有効性、(法的)効力 ⑦(言葉の価値) ここでは、②の「能力」「資質」「才能」などの訳語が適切だと思います。
・sans témoins :①目撃者なしに ②第三者を交えずに (témoins:目撃者、証人、立会人、証拠となるもの、リレー競争のバトン) ここでは、「他人の視線」と訳しました。
・serait :êtreの条件法現在。語調緩和や、現在の事実に反する仮定を表現するため用いられる。ここでは、、、、?
・capable de ~(不定詞):~することができる
(229)Le bien que nous avons reçu de quelqu’un veut que nous respections le mal qu’il nous fait.
◎或る人から我々が施される善行は、その人が我々に及ぼす害を大目にみてくれることを望んでいる。
(訳注)
・bien:①善、善行 ②利益、幸福、よいこと ③財、財産(avoir du bien「財産家である」)
・quelqu’un:誰か (in nous faitのilに対応)
・respections: respecter(尊敬する、敬う、権威に従う、尊重する、大事にする)の接続法現在形。主節がvouloir(望む)、souhaiter(希望する)、douter(疑う)などの「頭の中での想定」(=実際に想定通りになるかはわからない)を表す場合に、従属節(queの後の部分)の動詞の時制は接続法になります。ここでは、「尊重する」→「大目に見る」と訳しました。
なお、従属節のveut(vouloir)の主語は、文法的にはLe bienですが、日本語に訳すときは「bien(善行)を施してくれる人」を主語として訳す形でも良いと思います。というより、その方が日本語としては自然だと思います。例えば「我々に善行を施す人は、その人が我々に害を及ぼす場合でも、大目に見てくれることを望んでいる。」などのように。
(238)Il n’est pas si dangereux de faire du mal à la plupart des hommes que de leur faire trop de bien.
◎大多数の人に害を加えることは、彼等のために善行を与え過ぎることほどには危険ではない。
(訳注)
・si A que B:BほどAではない
・faire du mal à ~:①(人~に)苦痛を与える、害を及ぼす ②(物~に)害を及ぼす
・la plupart de~(複数名詞) :大部分(大多数)の~、大半の~
・trop de ~:余りに多くの~
・faire du bien à ~:①いい気持ちだ ②(薬などが)効く、③(人~に)尽くす
cf.faire le bien「善行をする、慈善行為をする」
➡この箴言は、「庶民のための処世訓」というよりは、「上から目線の統治論」のような感じがします。「モラリスト」ラ・ロシュフコーというよりは、マキアベリのような「人民統治のノウハウ」のような印象がありますね。
(269)Il n’y a guère d’homme assez habile pour connaître tout le mal qu’il fait.
◎自分が犯した悪の全てを十分に知っているほど器用な人は、ほとんどいない。
(訳注)
・ne…guère ~: あまり~でない、ほとんど~でない
・assez :十分に、かなり、まあまあ
・habile :器用な、être habile à~「~が上手である」、抜け目の無い
➡これは耳が痛いですね。「自分では気づかないところで悪事を働いているかもしれない」
ということを意識しておくこと、、、これはなかなか難しいと思います。「言うは易く」ですが、「自分自身を一歩引いた場所から眺める」ような意識は、少しずつであっても持っておきたいものです。
<引用おわり>
いかがでしたでしょうか。(238)は珍しく「上から目線」でしたが、(229)(269)などは庶民目線、というより「モラリスト」面目躍如の名文だと思います。
文法的には、(216)の条件法や(229の接続法は、少し解釈が難しいかもしれません。第94回ブログで紹介した箴言のように「全ての時制が現在形」であるようなフランス語の文章に比べれば、今回の文章の時制は難易度が少し上がると思います。
でも、「時制を意識した正しい翻訳」には過度にこだわらずに、「それらの時制が用いられる文章の実例」として気軽に接していただければ、フランス語の学びが深まると思います。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。