第52回 ジャック・プレヴェール 「朝食」(“Paroles”より)

第52回 ジャック・プレヴェール Jacques Prévert “Déjeuner du Matin” (朝食)

  皆様こんにちは、今回もお立ち寄りいただき、ありがとうございます。

 本日は第39回で紹介したジャック・プレヴェールの「Paroles」という詩集から、素敵な詩を紹介します。フランス語の文法「複合過去」(avoir+過去分詞、またはêtre+過去分詞)の学習にも最適であり、初めてフランス語を学ぶときに知っておくとたいへん効果的です!!!

 更に、この詩は何と!!!「セリフの無い短編映画のシナリオ」となっている詩です。後ほど、その短編映画についてもご紹介します(Youtubeで4分足らずで見られます)。

1)詩の引用: 

Déjeuner du matin (朝食)

Il a mis le café

Dans la tasse

かれはコーヒーをカップ(tasse)に注いだ。

Il a mis le lait

Dans la tasse de café

彼はコーヒーの入ったカップに牛乳を注いだ。

Il a mis le sucre

Dans le café au lait

Avec la petite cuiller

彼は小さなスプーン(cuiller)でカフェオレの中に砂糖を入れた。

Il a tourné

彼はカフェオレをかきまぜた。

Il a bu le café au lait

彼はカフェオレを飲んだ。

Et il a reposé la tasse

Sans me parler

彼はコーヒーカップを再び置いた(reposé)、私に話しかけもせずに。

Il a allumé

Une cigarette

彼はタバコに火をつけた。

Il a fait des ronds

Avec la fumée

彼はタバコの煙で輪を描いた。

Il a mis les cendres

Dans le cendrier

Sans me parler

Sans me regarder

彼はタバコの灰を灰皿に落とした、

私に話しかけず、見もせずに。

Il s’est levé

彼は立ち上がった。

Il a mis

Son chapeau sur sa tête

彼は頭に帽子をかぶった。

Il a mis

Son manteau de pluie

Parce qu’il pleuvait

彼はレインコート(manteau de pluie)を着た、

雨が降っていたからだ。

Et il est parti

Sous la pluie

Sans une parole

Sans me regarder

そして彼は立ち去った、

雨の中を

一言も残さず、私を見もせずに。

Et moi j’ai pris

Ma tête dans ma main

Et j’ai pleuré.

そして私は頭を抱え、

泣いたのだった。

(Jacques PRÉVERT “Paroles”1945)

2)詩をベースにした短編映画 (Emmanuel Tenenbaum監督):

 この詩の「私」は、もちろん「彼」のパートナーです。この詩に描かれた情景は、Emmanuel Tenenbaumという映画作家によって「セリフの無い」映画に映像化されています。

 通常の(セリフのある)「詩情あふれる」美しい映画を見た後には、しばしば、頭の中や胸の内に、「言葉にできない」不思議な、温かいともひんやりとも言い難い、静かなさざ波のような余韻が残るものです。温度でもなく、音でもない何か。やはり、「言葉」や「詩情」としか言い様のないものかもしれません。

 プレヴェールの詩は、そのような「余韻」を見事に言語化しているように思えます。更に言えば、詩というものは、そもそも、そういう「余韻」そのものなのだと思います。

 今回もお読みいただき、ありがとうございました。

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