第60回 詩とは何か (2)~詩人による定義の試み~
皆様こんにちは。今回は前回の続きで、現役の詩人であるPhilippe Laplace氏による「詩の歴史」の解説をふまえた「詩とは何か」に関する説明をお届けします。
前回冒頭でも紹介させていただいていますが、結論として、「詩は定義できない、なぜなら内在的なものだから」ということが、詩人の熱い思いと共に説得力をもって語られています。
<引用はじめ> (◎印の部分が日本語訳です。)
1)詩の起源:Origines de la poésie ➡こちらは前回ブログをご参照ください。
2)詩とは何か?辞書の定義:Qu’est-ce que la poésie ? Définition du dictionnaire
Art qui consiste en une combinaison de sonorités, de rythmes, de mots dans le but d’évoquer des images, d’exprimer des sensations, des émotions, des réflexions, de créer une expérience sensorielle unique.
◎音、リズム、言葉の組み合わせによる芸術であり、その目的は映像を思い出させることや、感覚・感情・内省を表現すること、傑出した感覚の経験を創造することなのです。
(訳注)
・combinaison:組み合わせ
・ sonorités:音、音色、音質、声の響き、声の抑揚、音響の良さ
・but:目的、目標、ねらい、目的地
・évoquer:思い出させる、思い出して語る、言及する
・sensations:感じ、印象、感覚、興奮、強い刺激、センセーション、大騒ぎ
・réflexions:熟考、内省、注意、考察、光や音の反射
・sensorielle:感覚の、感覚器の
・ unique:①(名詞の前または後で)唯一の、ただ一つの ②(一般に名詞の後で)比類のない、またとない、傑出した
3)La poésie… une définition impossible
◎詩:定義は不可能
Nombreux sont ceux qui ont essayé de définir la poésie dans ce qu’elle a de plus formel, mais il s’agit de définitions simplistes et réductrices.
◎多くの人が、「形式」の面で詩の定義を試みました。ところがそれは、一面しか見ていない、単純化された定義なのです。
(訳注)
・nombreux:多くの。Nombreux sont ceux…である人は多い。
・formel:明確な、形式に関する、形態を重んじる。
・simplistes:物事を不当に単純化する、一面しかみない、割り切り過ぎた。
・réductrices<reducteur:考えなどを単純化する、減速する、還元する。
En réalité, la poésie échappe à toutes définitions et il serait présomptueux de ma part de vous en proposer une car la poésie n’est pas quelque chose de figé, elle est immanente.
◎実際には、詩は全ての「定義」をすり抜けてしまうものなのです。そして、もし私があなたに「詩の定義」なるものを提示するとすれば、それは、思い上がりというものでしょう。なぜなら、詩というものは、何かしら不動・不変の(形式的な)ものではなく、内在的なものであるからです。
(訳注)
・échappre à:~から逃れる、気づかれない。
・il serait:条件法現在 (現在の事実に反する仮定)「もし私が詩の定義を提示するとしたら」➡実際には提示しないため、条件法現在形となっています。
・présomptueux:うぬぼれた、思い上がった
・figé:不動の、こわばった、凝固した、不変の
・immanente:内在的な
Elle est un langage singulier, le langage de l’invisible. La poésie c’est une musique édénique et suave qui effeuille une à une vos émotions et vous plonge dans un rêve éveillé.
◎詩とは独特の言語であり、目に見えないものに関する言語なのです。詩とはこの世の楽園のように甘美な音楽であり、あなたの感情を一つ一つ摘み取り、あなたを白日夢の中へと引き込むのです。
(訳注)
・singulier:風変わりな、奇抜な、(文)特異な、独特の
・invisible:身に見えない
・ édénique:この世の楽園のような (édén:この世の楽園)
・ suave:(文学的表現で)心地よい、甘美な
・ effeuille:(枝・茎などの)葉を落とす、(花の)花びらをむしる
・ plonger:浸す、沈める、ある状態に陥れる
・ éveillé:起きている、目が覚めている、生き生きとした、陽気な、抜け目の無い。「rêve éveillé」=白日夢
Maintenant laissons-nous transporter par la plume des poètes, car inévitablement ce sont eux qui en parlent le mieux
◎さて、詩人の作品によって連れていかれるがままになりましょう。なぜなら、「詩とは何か」に関して最も上手に語ってくれるのは彼らなのですから。
(訳注)
・laissons-nous transporter:se laisser+不定詞で ①~するままになる(不定詞が自動詞の時)例:Elle s’est laissée tomber sur la neigeé「彼女は雪の上にばったり倒れた。」②~されるがままになる(不定詞が他動詞でseがその直接目的語の時。本文の例。)transporter:行く、赴く、(想像によって)身を置く←例:Transportez-vous dans la Grèce antique.「古代ギリシアにいると想像してごらんなさい」)なお、se transporterにも「(想像によって)身を置く」という意味があります。←例:Transportez-vous dans la Grèce antique.「古代ギリシアにいると想像してごらんなさい」。
・plume:ペン先、文筆、筆致、文体
<引用おわり>
いかがでしたでしょうか。
何千年にもわたる詩の歴史を踏まえた、詩人らしい考え方だと思います。「詩は”定義”をすりぬけてしまう」「もし私があなたに”詩の定義”なるものを提示するとすれば、それは、思い上がりというものでしょう」という姿勢には、詩人による詩の長い歴史に対する敬意と、詩人自身の誠実さ・謙虚さを感じます。
「詩の形式」(日本の短歌57577や欧米の14行詩=ソネット、フランス詩の12音綴など)は、当然ですが詩の魅力の一つではあると思います。でも、「それ(=形式)に囚われすぎてはいけない」という、詩人本人による穏やかな、しかし決然とした警鐘だと思います。
確かに、詩人自らが本詩論の前半(前回ブログご参照)で紹介している詩の歴史を考えてみれば、もっともなことであるように思います。
なお、ウェブサイトでは、最後の「Maintenant laissons-nous transporter par la plume des poètes」に続いて、ヴィクトル・ユーゴーやジャック・プレヴェール等の詩人による「詩とは何か」に関する記述が紹介されています(これらにつきましては別途、紹介させていただきます)。
その中には、今回ご紹介したPhilippe Laplace氏によるものも含まれており、それは正に、上記で翻訳した次の部分でした。
La poésie c’est une musique édénique et suave qui effeuille une à une vos émotions et vous plonge dans un rêve éveillé.
初めてこの記述を読んだ時には、記述自体が詩的であり、はっとさせられました。ユーゴーやプレヴェールによる詩の「説明」(敢えて「定義」とは言わないことにします。Philippe Laplace氏によれば、詩は定義できないものであるためです。)と並んで、自身による詩の「説明」として素晴らしいですね。「詩人による詩的な詩の説明」とでも呼ぶにふさわしいと思います。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。