第59回 詩とは何か (1)~現役詩人による定義の試み~

  皆様こんにちは。本日のブログは、今までと少し違う内容をお届けします。今までたくさんのフランス詩を紹介してきましたが、そもそも、「詩とは何か」に関するウェブサイト投稿がありましたので、紹介させていただきます。

 フランスの「現役の」詩人であるPhilippe Laplace氏によるものです。結論として、「詩は定義できない、なぜなら内在的なものだから」ということが、詩の歴史と詩人自らの熱い思いと共に語られています。非常に奥深いものですので、一読の価値アリです。ちょっと長いですから、「詩の起源」と「詩とは何か」の二回に分けてご紹介します。今回は、詩人自らによる「詩の起源」です。

<引用はじめ> (◎印の部分が日本語訳です。)

詩の起源:Origines de la poésie

Le mot poésie vient du grec ποιεῖν (poiein) qui signifie « faire, créer » ;

◎「詩」という言葉は<<作る、創作する>>を意味するギリシア語のποιεῖν (ポイエイン)から来ています。

le poète est donc un créateur, un inventeu de formes expressives, ce que révèlent aussi les termes du Moyen Âge, comme trouvère et troubadour.

◎それゆえ詩人とは、創造者であり、表現力豊かな形式の発明者なのです。このことはまた、中世のtrouvèreやtroubadourという言葉が明らかにしていることでもあります。

(訳注)

・inventeur(発明者・発見者)

・expressives < expressif:いきいきした、生彩のある、表現力の豊かな、意味深い

・terme:言葉、用語、期限、終わり

・moyen Âge:中世

・trouvère:トウルヴェール(中世北フランスでオイル語を使った吟遊詩人)

・troubadour:トルバドウール(オック語で宮廷風恋愛を歌った中世南仏の吟遊詩人)

   Dans l’Antiquité grecque, toute expression littéraire est qualifiée de poétique, qu’il s’agisse de l’art oratoire, du chant ou du théâtre : tout « fabricant de texte» est un poète comme l’exprime l’étymologie.

◎古代ギリシアでは、弁論術であれ、声楽であれ、演劇であれ、文芸に関する表現は全て詩と呼ばれていました。つまり、語源学が表現している通り、全ての<<テキストの製造業者>>は詩人と呼ばれていたのです。

(訳注)

・antiquité:古代文明、太古

・littéraire:文学の、文芸の、文学に関する

・ qualifiée de~:~と呼ぶ、資格のある

・ poétique:詩学、詩法、創作論 / 詩の、詩的な

・ qu’il s’agisse:agisseはagirの接続法現在形。Il s’agit de「~が問題である」。 

  queは譲歩を表し「~であろうと」。

・ oratoire:演説の、弁論の

・fabricant:製造業者

・texte:書いた文章、原稿、原文、古典、課題

・ étymologie:語源学

  À l’origine la poésie est d’abord orale et chantée  ( la lyre d’Orphée ou la flûte d’Apollon )

◎初めは、詩は第一に口伝えのものであり、歌われるものでした(例:オルフェイスの竪琴、またはアポロンのフルート)

(訳注)

・orale:口頭の、口伝えの、口の

・lyre:竪琴、リラ、詩、詩想

   En effet, première expression littéraire de l’humanité, utilisant le rythme comme aide à la mémorisation et à la transmission orale, la poésie apparaît d’abord dans un cadre religieux et social

◎実際、人類最初の文学的表現は、リズムを記憶と口伝えの手段として利用しており、(その意味で)詩は宗教的・社会的な文脈の中で出現してきたのでした。

(訳注)

・littéraire:文学、文芸、文献、書かれたもの

・humanité(人類)

・ utilisant:「utilier」(使う)の現在分詞

・ rythme:リズム

・ mémorisation:記憶作用、記憶化、データの保存

・ dans un cadre de~:~の範囲内で、枠内で

 en instituant les mythes fondateurs dans toutes les cultures que ce soit avec l’épopéede Gilgamesh, (IIIe millénaire av. J.-C.) en Mésopotamie, les Vedas, le Ramayana ou le Mahabharata indien, la Poésie dans l’Égypte antique la Bible des Hébreux ou l’Iliade et l’Odyssée des Grecs.

◎そして、詩によって、あらゆる文化における建国神話が確立していたのです (西暦紀元前2,000年代のギルガメシュ叙事詩であれ、メソポタミアであれ、ヴェーダ、インドのラーマーヤナやマハーバーラタ、古代エジプトの詩、ヘブライ語の聖書、ギリシアのイーリアスやオデュッセウスであれ)

(訳注)

・instituant<instituer(制定する、確立する、遺言によって相続人に指定する)の現在分詞

・ mythes:神話、絵空事

・ fondateurs:創設の、礎となる (mythe fondateur:建国神話)

・ épopée:叙事詩、英雄の偉業、波乱万丈

・ IIIe millénaire:troisième millénaire(1,000年以上を経た、非常に古い) →troisième millénaire avant J.C=「西暦紀元前2000年代」

<引用終わり>

 以上が、詩人Philippe Laplace氏による「詩の歴史」の解説です。

「人類最初の文学的表現は、リズムを記憶と口伝えの手段として利用しており、その意味で、詩は宗教的・社会的な文脈の中で出現してきた」という点は、ヨーロッパの文学に限らないと思います。例えば、日本の平家物語なども、「口伝え」つまり伝承のために琵琶という楽器を用いた「叙事詩的歴史文学」でした。
 
 以上、詩の起源(歴史)を踏まえて、次回はいよいよ「詩とは何か」に関する同氏の持論を紹介させていただきます。

 本日もお読みいただき、ありがとうございました。

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