第65回 ジャン・ピエール・クラリス・ド・フロリアン / 雌猿と雄猿とクルミの実 (『寓話』より)

第65回 ジャン・ピエール・クラリス・ド・フロリアン(JEAN-PIERRE-CLARIS-DE-FLORIAN)・「雌猿と雄猿とクルミの実」(『寓話』より)

皆様こんにちは、本日もお立ち寄りいただき、ありがとうございます。

 本日は少し趣向を変えて、動物を題材にした「寓話詩」をお届けします。作者は18世紀のジャン・ピエール・クラリス・ド・フロリアン(Jean-Pierre-Claris-de-FLORIAN:1755年~1794年)です。1792年の詩集『Fables』(寓話)に含まれている「雌猿と雄猿とクルミの実」という詩です。
 
 フランス文学における「寓話」といえば、「ラ・フォンテーヌ」(1621年~1695年)が「北風と太陽」などのイソップ寓話を基に作った寓話詩『Fable』(1668年)が有名ですね。今回の詩は、その約120年後に書かれていますが、動物を題材にしており、そのような時間の隔たりを感じさせません。
 
 彼以外にも、「寓話詩」を残していた人がいたとは知りませんでした。詩集が作られた1792年は、フランス革命直後の激動の時代ですが、そんなことを忘れさせてくれます。「捨てる神あれば拾う神」「棚からぼたもちは無い」、というようなことを、笑いと共に教えてくれます。それでは、お楽しみください。
  
<引用はじめ>

La guenon, le singe et la noix

1)Une jeune guenon cueillit

◎若い雌猿が、クルミの実を取りました。
(訳注)
・guenon:雌猿
・cueillit<cueillir:(果実・花などを)摘む。逮捕する。cueillitはil/elleに対応する直説法単純過去形(なお、il/elleに対応する現在形はcueille)。

2)Une noix dans sa coque verte ;

◎そのクルミの実は緑色の殻に包まれていました。                                            (訳注)
・noix:クルミの実
・coque:殻
・verte<vert:緑色の

3)Elle y porte la dent, fait la grimace… ah ! Certes,
◎雌猿は、そのクルミの実を口に入れると、顔をしかめました。「ああ、確かに!」                                  (訳注)
・porter:持っていく、運ぶ
・dent:歯
・fait la grimace:faire la grimace不満を顔に表す、嫌な顔をする。
・certe:確かに、もちろん、いかにも。

4)Dit-elle, ma mère mentit

◎と雌猿は言いました。「お母さんは私に嘘をついたのです!」                                       (訳注)
・mentit<mentir:嘘をつく。(elle) mentitは直説法単純過去形。(現在形はment)

5)Quand elle m’assura que les noix étaient bonnes.

◎お母さんは私に、「クルミの実はおいしいのよ」と請け合いました。
(訳注)
・assura<assurer:断言する、請け合う、保証する。assuraは直説法単純過去形。

6)Puis, croyez aux discours de ces vieilles personnes

◎それから、年寄りたちの話を信じてしまうと、                                             (訳注)
・croyez aux < croire à~:(真実性・価値・実在・実現などを)信じる。
Cf.croire en~(人を)信頼する、信用する、~の実在を信じる。(croire en Dieu:神の存在を信じる)

7)Qui trompent la jeunesse ! Au diable soit le fruit !

◎若者はだまされてしまうのです! クルミの実なんてクソくらえ!                                    (訳注)
・trompent<tromper:だます
・Au diable:~なんてクソくらえ!(diable:悪魔、いたずらっ子)
・fruit:果物、実 (クルミの実なんてクソくらえ!)

8)Elle jette la noix. Un singe la ramasse,

◎その雌猿がクルミの実を投げ捨てると、雄猿がそれを拾います。
(訳注)
・jetter<jeter:投げる、投げ与える、捨てる
・ramasse:集める、拾う。

9)Vite entre deux cailloux la casse,

◎そして、それを二つの小石の間に挟んで手早く割り、                                          (訳注)
・cailloux:小石、砂利、水晶、ダイヤモンド
・casse<casser:割る、壊す、折る、破棄する、降格させる、打ちのめす。la casserのla
は雌猿が投げ捨てたクルミの実(la noix:女性名詞)を指す。

10)L’épluche, la mange, et lui dit :

◎皮をむいて食べました。そして雌猿に向かって言いました。                                        (訳注)
・épluche<éplucher:皮をむく、不要な部分を取り除く。

11)Votre mère eut raison, ma mie :

◎ねえ、雌猿さん。あなたのお母さんの言ったことは正しいですよ。                                    (訳注)
・mie:(古い表現で)いとしい女。cf.mamie:「ねえ、おばあちゃん」(幼児語)

12)Les noix ont fort bon goût, mais il faut les ouvrir.

◎クルミの実は本当においしいです。でも、クルミの実の殻をむく必要があります。                             (訳注)
・ouvrir:開く、あける、広げる➡(クルミの実の)皮をむく。

13)Souvenez-vous que, dans la vie,

◎忘れないで欲しいのです、人生においては、                                               (訳注)
・Souvenez-vous que<se souvenir(代名名詞) :思い出す、覚えている、(多く命令形で)忘れないようにする。

14)Sans un peu de travail on n’a point de plaisir.

◎少しばかりの労働を惜しんでいては、ちっとも楽しみを得られないということを。                              (訳注)
・n’a point de:ne~pasの文学的表現。「少しも~ない」

・un peu de~:少しの~(「~」は物質名詞・抽象名詞。数えられる名詞について言う場合は、quelques amis(数人の友人)のようにquelquesを使う)

Jean-Pierre Claris de Florian.

<引用おわり>

 いかがでしたでしょうか。最後の締めが「un peu de travail」(少しの労働)というところが、ほほえましいですね。「ものすごく働かないと楽しみは得られない」では悲しいですし。

 本日もお読みいただき、ありがとうございました。

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