第66回 ロベール デスノス(Robert Desnos)・ 最後の詩(Le dernier poème)
皆様こんにちは、ぱすてーるです。本日もお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
今回は、フランスの詩人にして放送作家、映画・音楽評論家、ジャーナリストでもあったロベール・デスノスの『最後の詩』をお届けします。熱烈な愛の詩です。
デスノス(1900年~1945年)は、アンドレ・ブルトンに代表される「シュルレアリスム」(理性による監視を全て排除し、美的・道徳的な全ての先入観から離れた、思考の書き取りにより、人間の全体性を回復しようとする文学・芸術運動)の運動にも参加しました。
アンドレ・ブルトンに「シュルレアリスムの預言者」とまで称されましたが、その後は離反。放送作家として「ファントマ大哀歌」が成功を収めたことを機に、ラジオ番組の制作、音楽・映画評論の執筆に専念しています。
その後の彼の歩みにつきましては、今回ご紹介する詩に深く関係しますので、後ほどのお楽しみとさせていただければと思います。
<引用はじめ>
Le dernier poème
Robert Desnos
1)J’ai rêvé tellement fort de toi,
◎僕は君をどれほど夢に見たことだろう。
(訳注)
・fort:強く、激しく、ひどく、(文学的表現で)大いに、たいそう、非常に
2)J’ai tellement marché, tellement parlé,
◎どれほど歩きまわり、語り、
(訳注)
・tellement~que:非常に~なので (1~3行目で繰り返されるtellementは、4行目のQu’il ne me resteのQueに呼応。英語のso~thatに相当。)
3)Tellement aimé ton ombre,
◎どれほど君の影を愛したことだろう。
(訳注)
・ombre:影、日陰、東映、陰影、暗部、(文学的表現で)暗がり・闇、人影、気配、影、アイシャドー、霊魂
4)Qu’il ne me reste plus rien de toi.
◎だからもう、僕には君しか残されていないんだ。
(訳注)
・il ne me reste plus rien de toi:「Il reste +~(名詞)」で「~が残っている」。ne~plus「もはや~ない」(例:Je ne dirai plus jamais rien.「私はもう二度と何も言いません。」)
5)Il me reste d’être l’ombre parmi les ombres
◎数ある影の中でも一番の影になることしか残されていないんだ。
(訳注)
・parmi:(複数あるものの)中で。英語のamong
6)D’être cent fois plus ombre que l’ombre
◎どんな影よりも、はるかに暗い影になることしか、
(訳注)
・cent fois:何倍も、何回も、きわめて(直訳:100倍も)
7)D’être l’ombre qui viendra et reviendra
◎君の晴れやかな生命の中に、何度も、
8)Dans ta vie ensoleillée(日当たりの良い、晴れやかな).
◎何度もやってくる影になることしか、残されていないんだ。
(訳注)
・ensoleillé:日当たりの良い、晴れやかな
<引用おわり>
いかがでしたでしょうか。
私もそうだったのですが、デスノスに関する予備知識が全く無い状態でこの詩を読まれた皆様は、詩の中で繰り返し出てくるtoi(君)をどのように解釈されたでしょうか。私は、月並みですが、「生き別れた恋人」と解釈していました。
種明かしですが、デスノスは放送作家として活躍後、対独レジスタンス運動に参加し、ゲシュタポに逮捕され、1945年6月8日にチェコのテレージエンシュタート強制収容所からの解放直後に、発疹チフスで病死しています。
この詩は 、ナチスのユダヤ人迫害の犠牲者を祭る記念碑に刻まれているそうです。実際には、この詩が書かれたのは1926年のパリであり、奉げられた相手はデスノスの片思いのYvonne Georgという女性だったそうです。「犠牲者へ奉げられた詩」と「片思いの女性への詩」というのは大きな違いですが、作者がデスノスであることに変わりはありません。
正直、ユダヤ人迫害の記念碑に刻まれた詩とは思いもよりませんでした。あらためて、この事実を踏まえてこの詩を読み返しますと、toi(君)は、「ナチスの迫害で命を落とした数多くの犠牲者全員」という解釈も許されると思います。
この詩で何度も繰り返されるombre(影、闇、霊魂)という言葉は、非常に訳し辛いのですが、迫害で命を落とした人々を想定すれば、「影」「霊魂」「面影」「闇」など色々な訳語を当てることも可能と思います。皆様はどう解釈されたでしょうか。
ちょっと重い内容となってしまいましたが、「詩」、ひいては「ことば」の重みをあらためて認識させてくれる詩だと思います。最後に、全文をまとめて引用させていただきます。
J’ai rêvé tellement fort de toi,
J’ai tellement marché, tellement parlé,
Tellement aimé ton ombre,
Qu’il ne me reste plus rien de toi.
Il me reste d’être l’ombre parmi les ombres
D’être cent fois plus ombre que l’ombre
D’être l’ombre qui viendra et reviendra
Dans ta vie ensoleillée
本日もお読みいただき、ありがとうございました。