第70回 女流詩人 デボルド・ヴァルモール(Marceline DESBORDES-VALMORE) / / サーディのバラ(Les roses de Saadi)
皆様こんにちは、今回も本ブログにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
今回は、女流詩人デボルド・バルモール(1786年~1859年)の詩の翻訳をお届けします。
米国では、エミリー・ディキンソン(Emily Elizabeth Dickinson、1830年~1886年)のような有名な女流詩人がいますが、フランスの女流詩人の詩を読むのは初めてです。
バルモールは、フランス革命後の1801年、15才の時に母親と二人で、年上の親戚から財政支援を得るためにグアドループに渡るという数奇な運命を経験をした女性です。ウィキペディアによると、その地で母親とも死に別れ、子供たちの相次ぐ死を経験し、夫の成功への期待もかなわず、非運と貧窮のなかで詩作に没頭しています。『哀歌、マリー、恋唄(うた)』(1819)、『新たな哀歌と詩』(1825)、『涙』(1833)、『哀れな花々』(1839)などの作品を残しています。
今回ご紹介する詩は、上記のような事情を知らない状態でお読みいただいても十分楽しんでいただけると思います。はやるような恋人に会いたい気持ちが、「バラの花」に象徴されています。すぐに何かの音楽の歌詞になりそうな、愛らしい、素朴で音楽的な詩です。詩の音楽性という点では、この詩の奇数脚韻を巧みに使用する技法は、後にヴェルレーヌが絶賛したそうです。それでは、お楽しみください。
<引用はじめ>
J’ai voulu ce matin te rapporter des roses ;
Mais j’en avais tant pris dans mes ceintures closes
Que les noeuds trop serrés n’ont pu les contenir.
◎今朝あなたへ、バラの花を届けたかったのです。
けれども私は、バラを多く摘み取り過ぎたので、
きつく締めた腰巻きの中には入りきらなかったのです。
(訳注)
・rapporter:再び持ってくる、戻す、持ち帰る、(利益を)もたらす、語る、伝える、報告する、付け加える
・en~tant:tant de「それほど多くの~」tant des rosesのdes rosesがenになっている。
・ceinture:(女名)ベルト、バンド、腰、ウエスト、帯状に取り巻くもの
・clos:閉ざされた、囲まれた、終了した
・noeud:結び目、結び、(ネクタイなどの)飾り結び、リボン飾り、木の節、(交通などの)要衝、分岐点、革新、かなめ、(作品の)山場
・serré(s):詰まった、窮屈な、(試合などが)伯仲した、(服が)体の線にぴったり合った、(論理が)緻密な、手堅い、(経済的に)苦しい、窮屈な (コーヒーなどが)濃い
・contenir:含む、抑える、(面積・容量を)持つ、(人を)収用する。
Les noeuds ont éclaté. Les roses envolées
Dans le vent, à la mer s’en sont toutes allées.
Elles ont suivi l’eau pour ne plus revenir ;
◎腰巻きの結び目がほどけてしまったので、
バラの花はみな、風に吹かれて海の方へ
飛んで行ってしまいました。そして、波間に漂い、
もう二度と戻って来ませんでした。
(訳注)
・éclaté<éclater:破裂する、さく裂する、突然起こる、鳴り響く、爆発させる、分裂する、割れる、明らかになる、一躍有名になる。
・envolées<envoler:飛び立つ、吹き飛ばされる、不意にいなくなる、(時が)過ぎ去る、(希望などが)消え去る
・s’en sont allees:s’en aller 「去る」の代動名詞。
・suivi<suivre:~の後についていく、~の後から来る(行く)、次に来る、沿っている、注目し続ける。
La vague en a paru rouge et comme enflammée.
Ce soir, ma robe encore en est tout embaumée…
Respires-en sur moi l’odorant souvenir.
◎バラが散った海の波は、真っ赤で、まるで
炎で燃え上がったようでした。
今宵、私の部屋着はまだ良い香りに包まれています。
私の身の上で、その良い香りの思い出を味わってください。
(訳注)
・vague:波、(現象・感情などの)急激な高まり、(殺到する)人の群れ、(草原などの)うねり
・La vague en:La vague des rosesのdes rosesをenで受けています。
・paru<paraître:~のように見える(思われる)、(本などが)出る、現れる、姿を見せる
・enflammée:炎症を起こした、火のついた、燃え上がった、熱のこもった、情熱的な
・embaumée<embaumer:良い香りで満たす、~の香がする
・respirer:呼吸する、息をする、ほっと一息つく、(空気を)吸う、(匂いを)かぐ、(感情・性格などを表面に)表す、発散する。
・odorant:芳香を放つ、匂いのする
<引用おわり>
いかがでしたでしょうか。3詩行 x 3=9詩行の短い詩ですが、本当に軽妙で音楽的です。
ヴェルレーヌ自身が影響を受けたとのことですが、実際、彼の詩集『Fêtes galantes』の中のPANTOMIMEという詩は、今回のバルモールと同じ3行詩で構成され、押韻も似たものとなっています。以下、ご参考として引用させていただきます(1行目と2行目が連続で押韻、3行目は6行目と押韻し、再び4行目と5行目が連続で押韻)。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
<ご参考・引用はじめ>
Pierrot, qui n’a rien d’un Clitandre,
Vide un flacon sans plus attendre,
Et, pratique, entame un pâté.
Cassandre, au fond de l’avenue,
Verse une larme méconnue
Sur son neveu déshérité.
Ce faquin d’Arlequin combine
L’enlèvement de Colombine
Et pirouette quatre fois.
Colombine rêve, surprise
De sentir un coeur dans la brise
Et d’entendre en son coeur des voix.
<ご参考・引用おわり>