第75回 ロンサール / 抒情詩(Odes)

第75回 ロンサール(Pierre de RONSARD)  /  Odes(抒情詩・頌歌)

 皆様こんにちは、本日もお立ち寄りいただき、まことにありがとうございます。

 本日は、フランス ルネサンス期の詩人であり、Prince des poètes(プランス・デ・ポエット:詩王、詩聖)の称号を与えられたPierre de RONSARD (1524-1585)の詩を紹介します。この称号から、この詩人の存在がどれほど大きいかは想像に難くないと思います。

  若い女性の美を、バラの花の美しさに例えて詠んだ美しい詩です。比喩表現の巧みさに加えて、少し古い時代のフランス語であることもあり、解釈はなかなか大変です(特に番号を付した4~9行目)。

 逆に言えば、そうであるからこそ、フランス語の学習には大変役に立ちます。詩において有り勝ちな、主語・動詞・名詞がそれぞれ離れて配置されている場合の解釈の勉強になります。全18行に番号と和訳(◎印の部分)を付します。それでは、お楽しみください。

1)Mignonne, allons voir si la rose

◎可愛いお嬢さん、バラを見に参りましょう。

(訳注)

・Mignonne:かわいい子、(会話で)若い娘

・allons voir:見に行こう!(allons~しに行く)

・si :~かどうか。

・la rose:このla rose(主語)に対応する動詞は、4行目のa perdu(失っていないかどうかを見に行く)。動詞の目的語は、5行目のles plis(バラの花びらのひだ)および6行目のson teint(顔色=バラの花びらの深紅の色)。2行目Qui ce matin~ 3行目Sa robe~は、挿入句となって「今朝、太陽の方に向かって開いたバラの花を見に行きましょう。」

2)Qui ce matin avoit desclose

◎今朝、深紅の花びらを、

(訳注)

・avoit:avaitの古仏語

・desclose:辞書に不掲載。closはclore(閉じる)の過去分詞ですので、desを付けて反対の意味と解釈して「開く」。→朝日(soleil)に向けて緋色の花ビラ(robe)を広げていた(avait:半過去)。

3)Sa robe de pourpre au Soleil,

◎太陽に向けて広げていましたが、

(訳注)

・robe:ドレス、ワンピース、ガウン、部屋着。ここでは、バラの花びらを指す。

・pourpre:緋色染料(古代に貝から採った)、(文学的表現で)緋色、緋色の衣(富や高位の象徴)、(文学的表現で)深紅の色

4)A point perdu ceste vesprée

◎そのバラが夕方、宵の明星が出る頃に、

(訳注)

・point:(neを伴って)~ない、少しも~ない。

・perdu:perdre(失う)の過去分詞。目的語は5行目のLes plisと6行目のson teint。このperduの目的語を探すのは、なかなか難しいと思います。

・ceste:cetteの古仏語

・vesprée:宵の明星、晩祷。ceste(cette) vesprée「今晩」(this evening)と訳しました。

5)Les plis de sa robe pourprée,

◎深紅の花びらのひだと、

(訳注)

・pli(s):折り目、ひだ、プリーツ、(服などの)しわ、(土地の)起伏、(髪の)癖・形、(人の)癖・習慣、封筒、手紙。

・pourpré(e):緋色の、深紅の

6)Et son teint au vostre pareil.

◎あなたの顔色とそっくりな、花びらの色を失っていないかを見に。

(訳注)

・teint:顔色、 

・vostre:vôtreの古仏語。(定冠詞を伴って)あなたのもの、あなたがたのもの、君たちのもの。例)Mon cahier et le vôtre(私のノートとあなたのノート=votre cahier)

・pareil:①形容詞「同じ」「~に似た」「このような」 ②名詞「同じような人」「匹敵する人」

7)Las ! voyez comme en peu d’espace,

◎ああ何と!お嬢さん、ほんのわずかな時間の間に、

(訳注)

・Las:(文学的表現で)疲れた、疲れ果てた、de~にうんざりした、(古い表現で)ああ悲しい。

・espace:空間、宇宙、空、間隔、距離、地域、物理的空間。en(dans) l’espace de+時間~「~の間に」

8)Mignonne, elle a dessus la place

◎お嬢さん、バラが地面の上に散ってしまい、

(訳注)

・dessus:その上に、表に。

・place:場所、スペース、広場→バラが散り落ちた「地面」と解釈しました。dessus la place「地面の上に」

9)Las ! las ses beautez laissé cheoir !

◎悲しいことに、バラの美しさが消え失せてしまっています!

(訳注)

・beautez:beautésの古仏語

・laissé cheoir(choir)

・cheoir:choirの古仏語。(文学的表現で)落ちる、倒れる(=tomber)。Laisser choir~ (ふざけて)人を見捨てる、~をやめる。

10)Ô vrayment marastre Nature,

◎ああ、「自然」というのは、なんと意地悪な母であることでしょう。

(訳注)

・vrayment:vraimentの古仏語

・marastre:marâtreの古仏語。邪険な母、(古い表現で)まま母

11)Puis qu’une telle fleur ne dure

◎なぜなら、こんな綺麗な花の命が、

(訳注)

・Puis qu’une:Puisqu’uneの古仏語

12)Que du matin jusques au soir !

◎朝から夕方までしか続かないのですから!

13)Donc, si vous me croyez, mignonne,

◎ですから、お嬢さん、

(訳注)

・si vous me croyez:もしあなたが私を信じてくれるなら→「croyez-moi」(強調・断言で)「ですからね」

14)Tandis que vostre âge fleuronne

◎あなたが年頃である間に、

(訳注)

・vostre:votreの仏語

・fleuronne:この単語は辞書に掲載されていませんでした。「fleuronner」(繁栄する)または「fleurer」(文学的表現で)薫る、香りを放つ、想起させる、感じさせる。のどちらかと思われます。ここでは、「繁栄する」→「年頃(恋愛適齢期)である」と訳しました。

15)En sa plus verte nouveauté,

◎最も新緑がきれいなうちに、

(訳注)

・nouveauté:新しさ、斬新さ、新しいこと、変革、新刊書、新製品。verte nouveauté(緑色の新しさ➡新緑)

16)Cueillez, cueillez vostre jeunesse :

◎あなたの若さを摘み取ってください。

(訳注)

・cueillez<cueillir:(果実・花などを)摘む、収穫する。(人を)拾う・迎えに行く、逮捕する。

17)Comme à ceste fleur la vieillesse

◎なぜなら、このバラの花のように、

(訳注)

・comme:①~のように(比較) ②~として(資格) ③~なので(理由) ④~したときに(時) ⑤何と~だろう(副詞/感嘆文)

・ceste:cetteの古仏語

18)Fera ternir vostre beauté.

◎「老い」があなたの美の輝きを曇らせてしまうからです。

(訳注)

・vostre:votreの古仏語

・fera:faire(使役動詞「~させる」)の単純未来形

・ternir:輝き(つや)を消す、曇らせる、(名誉などを)汚す

<引用おわり>

 いかがでしたでしょうか。

 私は最初、詩に歌われた場面は昼間なのかと勘違いしていました。違いますね。視点は夕方(宵の明星の時間帯)にあります。のどかな最初の6行の雰囲気は、7行目の「バラが散った」場面から急変します。急変を象徴するのがLas!(ああ!)という言葉です。

 「今朝、咲いたばかりの美しいバラが、夕方の今になっても綺麗な花ビラを残しているか見に行ったら、悲しいことに散ってしまっていた。」というシーンになぞらえて、女性が若さを謳歌する必要性を説いています。

 この詩で歌われている「意味」を一言で言えば、月並みですが「命短し恋せよ乙女」ですが、この「意味」を伝えるための比喩表現は、ほんとうに素晴らしいですね!

 フランス語の解釈としては、4~9行目までは比喩表現や古い時代の単語もあり、大変難しいと思います。一方、10行目以降は、比喩表現もそれほど複雑ではなく、比較的分かり易い「教訓」になっています。

 過去のブログで紹介させていただいたジャック・プレヴェールのシンプルな詩とは違って、読むのにはちょっと忍耐が必要な詩だと思います。

 長くなってしまいましたが、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。ちょっと大変ですが、1行ずつ追いかけていただく価値のある、珠玉の詩だと思います。

 本日もお読みいただき、ありがとうございました。

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