第89回 ジャック・プレヴェール(Jacques Prévert) 「IN NE FAUT PAS」
皆様こんにちは、本日も当ブログにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
本日はジャック・プレヴェールの一風変わった詩をお送りします。「タイトル」と言えるような独立したタイトル(例えば、第87回ブログでご紹介した『失われた時間』のような)が無く、またMessssssieursのように単語がデフォルメされています。
でも、第一行の内容からして、この詩が直ちに「知識人批判」であることが分かります。そして、この詩を読み終えて直ぐに、同じ詩集「Paroles」の中に含まれている、僅か2行のある詩を思い出しました!それについても最後に紹介させていただきます。それでは、お楽しみください。いつものように、◎の部分で和訳を付しています。
<引用はじめ>
Il ne faut pas laisser les intellectuels jouer avec les allumettes
◎知識人たちを、一人でマッチ遊びさせてはダメです。
(訳注)
・Il ne faut pas~:~してはいけない
・laisser :①残す、置き忘れる、別れる、放っておく、②預ける、渡す、(人に~を)任せる、委ねる ③(人に)~させておく、~させる
・intellectuel(s):知識人
・ jouer avec ~:~で遊ぶ、~をもてあそぶ。
・ allumettes:マッチ(棒)、細長い脚
Parce que Messieurs quand on le laisse seul
◎なぜなら、皆さん、彼らを1人にしておくと、
Le monde mental Messssieurs
(訳注)
・le:intellectuelを指す。
◎世の中は精神的な面で、(いいですか)皆さん!
(訳注)
・mental:精神の、心的の、頭の中でする(calcul mental:安全)、心の中でする(prière mentale:黙とう)
N’est pas du tout brillant
◎全く持ってぱっとしなくなってしまうのです!
(訳注)
・brillant:輝く、光る、輝かしい、優秀な、ne pas être brillant「(健康・業績などが)ぱっとしない」
Et sitôt qu’il est seul Travaille arbitrairement S’érigeant pour soi-même Et soi-disant généreusement en l’honneur des travailleurs du bâtiment Un auto-monument
Répétons-le Messssssieurs Quand on le laisse seul Le monde mental
Ment Monumentalement.
◎そして、彼は一人になるとすぐ、好き勝手に仕事を始めてしまうのだ。自分自身の肖像の建築に携わる建築現場の労働者たちに対し、「気前よく敬意を表している」と言いながら。ですから皆さん、繰り返しましょう、知識人を一人にしておくと、世の中は精神的な面で、途方もなくだまされてしまうのです!
(訳注)
・sitôt que:①~するとすぐに ②(省略構文:sitôt+過去分詞・状況補語で)~するとすぐ 例)Sitôt arrivé, il m’a téléphoné「到着するとすぐに、彼は私に電話してきた」
・Travaille :il travailleと解釈しました(ilが省略されている)
・arbitrairement:勝手に、恣意的に、専断的に
・S’érigeant :①ériger:建立する、建てる、(en~に)格上げする。②代名動詞:s’ériger en~:~をもって自らを任じる、~と自任する。
・soi-même :自分自身、それ自体 (3人称再帰代名詞強勢形soiの強調)
・soi-disant :①(人について)自称の ②(物について)いわゆる ③~と称して(副詞)
・généreusement :①気前よく ②(文学的表現で)寛大に、高潔な心で
・en l’honneur des :~に敬意を表して、~を祝して (honneur:名誉、体面、面目、信義、栄誉、敬意のしるし、栄達)
・travailleurs :働く人、勉強家、労働者、勤労者
・bâtiment :①建物、建築物、ビル ②建築業 ③大型船
・auto-monument:auto=「自己」「自身」「自動」monument=①歴史的建造物 ②記念碑 ③記念碑的大作 ④(会話で)大きなもの・極端なもの ⑤un monument de~「~の極み」
・Répétons-le :そのこと(=冒頭の「知識人たちを、一人でマッチ遊びさせてはダメ」ということ)を繰り返しましょう。
・ment<mentir:嘘をつく、だます、人をあざむく、真実を伝えない
・monumentalement:monumental(e)「巨大な」「壮大な」「途方もない」「有名な建造物に関する」
<引用おわり>
いかがでしたでしょうか。タイトルも無く、単語もデフォルメされ、途中には主語がない(Travaille)など、一風変わった詩だと思います。それもこれも、「”知識人批判”のためのレトリック」と言えるかもしれません。
冒頭でも触れましたが、この詩を読んで直ぐに頭に浮かんだのは、同じ詩集Parolesの中の次の詩です。わずか2行の不思議な詩です。
<引用はじめ>
LES PARIS STUPIDES
Un certain Blaise Pascal
Etc…etc…
◎ばかげた賭け
ブレーズ・パスカルとかいう奴など。。。
(訳注)
・paris:賭け(男性名詞)。パスカルはフランスを代表する天才数学者・物理学者ですが、キリスト教弁証論『パンセ』の中で神の存在証明を試みました。その際の手段の一つが「賭け」の理論です。
・stupide:愚かな、ばかな、愚鈍な、ばかばかしい、無意味な
<引用おわり>
プレヴェールが批判する知識人は、基本的には彼の同時代人が想定されていると思います。Messssssiersというデフォルメも、「また知識人がとんでもない演説をぶっている」というような皮肉が込められているように思います。(実際のところは分かりませんが、私の個人的な解釈です。)
学生時代、パスカルにかぶれていた自分としては、プレヴェールが批判する知識人として第一にパスカルが思い浮かびました。同じ詩集に載っているせいもあるとは思います。
今はパスカルの呪縛からは解き放たれていますが、彼のペシミスム(悲観主義)を真に受けていては、とても真っ当な生活はおぼつきませんね。この感覚は、「自称」(soi-disant)健全な感覚と思いますが、それはプレヴェールの上記の詩にも共通する感覚だと思います。いつも「健全な」「健康的な」判断力を持っていたいものですね!
以下、全文をまとめて掲載させていただきます。本日もお読みいただき、ありがとうございました。
Il ne faut pas laisser les intellectuels jouer avec les
allumettes
Parce que Messieurs quand on le laisse seul
Le monde mental Messssieurs
N’est pas du tout brillant
Et sitôt qu’il est seul Travaille arbitrairement S’érigeant pour soi-même Et soi-disant généreusement en l’honneur des travailleurs du bâtiment Un auto-monument
Répétons-le Messssssieurs Quand on le laisse seul Le monde mental
Ment Monumentalement.