第38回 テーマ別 ラ・ロシュフコー箴言集より (自己愛)

第38回 テーマ別 ラ・ロシュフコー箴言集より (自己愛)

 皆様こんちには、ぱすてーるです。本日もお読みいただき、ありがとうございます。

 本日も、以前からご紹介しておりますラ・ロシュフコーの箴言集から珠玉のことばをお届けします。この箴言集は、様々なテーマを取り扱っているのですが、必ずしも「テーマ」ごとに章立てはされておりません。

 そこで、第27回ブログでご紹介したJean-Marie Andréという方が、2013年にラ・ロシュフコーの箴言の数々をテーマ別に編集した”Les twitts de la Rochefoucauld”(ラ・ロシュフコーのツイート)というサイトを参照し、テーマを絞ってご紹介したいと思います。本日のテーマは「自己愛」(l’amour propre)です。引用文左側の数字は、原文の箴言の番号です。

(2)L’amour propre est le plus grand de tous les flatteurs.

◎自己愛は、あらゆるごますり(人間)の中にあって、最も強力なものである。

(訳注)flatteur:ごますり、おべっか使い

(4)(L’amour-propre est plus habile que le plus habile homme du monde.

◎自己愛は、この世で一番抜け目のない人間よりも更に、抜け目の無いものである。

(訳注)habile:器用な、上手な、抜け目の無い、そつのない。

   A est plus ~ que B :AはBよりも もっと~である (文法上のいわゆる比較級)

    A est le plus ~ du monde:Aは世の中で最も~である (文法上のいわゆる最上級)

(13)Notre amour-propre souffre plus impatiemment la condamnation de nos goûts que de nos opinions.

◎我々の自尊心にとっては、自分の意見をこきおろされるよりも、趣味をこきおろされる方が、一段と苛立たしくて我慢ができない。

(訳注)

・souffre:苦しむ

・impatiemment:いらいらして、待ちかねて

・condamnation:有罪判決、非難、否認、禁止

(126)Les finesses et les trahisons ne viennent que de manque d’habileté;

◎巧妙な策略や裏切りは、器用さ(cf.器量:下記訳注ご参照)の欠如にのみ由来する。

(訳注)

・finesses:このfinesseの解釈は非常に難解と感じました。通常は、「精巧さ」「細さ」「鋭敏」など、どちらかと言えばプラスのイメージの単語と思います。有名なパスカルの「繊細の精神」(esprit de finesse:真理を直観的に見抜く繊細の精神)などもその例です。ところがこの126番の箴言では、trahison(裏切り)と並置され、明らかなマイナスのイメージの単語として用いられています。私は「巧妙な策略」と訳しましたが、二宮フサ氏の翻訳(岩波文庫)では、「詭計」と訳されていました。さすがです、確かに「詭計」は簡潔でしっくり来る訳語ですね。

・ trahison:裏切り

・ ne viennent que de manque:ne~queは限定をあらわす(~だけ)。venir de ~から来る、~に由来する。 manque:欠如、欠落

・habileté:器用さ、巧みさ、要領、こつ。この訳も難しいと感じました。二宮フサ氏の翻訳では、「器量」と訳されていました。この126番の箴言は、Jean-Marie André氏の分類では「自己愛」のカテゴリーに分類されていますから、「器量」という訳語は素晴らしいと思います。つまり、「器量」=「人間としての度量」が少ないこと(=manque:欠落していること)は、カテゴリーの「自己愛」とも整合します。

(128)La trop grande subtilité est une fausse délicatesse, et la véritable délicatesse est une solide subtilité.

◎過度の緻密さ(余りに凝り過ぎること)は、誤った細心さであり、真の細心さとは、確固とした緻密さである。

(訳注)

・Subtilité:緻密さ、巧妙さ 過度の微妙さ、凝り過ぎ、煩瑣なこと

・délicatesse:思いやり、気遣い、細心さ、繊細さ、優美さ、洗練、精巧さ、鋭敏さ、微妙さ、難しさ。

・solide:頑丈な、しっかりした、信念の堅い

➡この箴言も素晴らしいですね。数々の戦闘や宮廷での実務を担ってきた方ならではの警句と思います。二宮フサ氏の素晴らしい訳も併せてお届けします。

「むやみに細かいのは偽の緻密で、真の緻密は空疎でない細かさである。」

➡緻密さを否定するものではないにせよ、意味も無く細か過ぎるのはナンセンス、ということですね。日々の仕事においても役に立つ知恵だと思います。

(140)Un homme d’esprit serait souvent bien embarrassé sans la compagnie des sots.

◎才気あふれる人は、一緒に居合わせる仲間の中に間抜けな人々が居ないと、しばしば

当惑してしまうことでしょう。

(訳注)

・homme d’esprit:機知に富んだ人

・serait:êtreの条件法現在形。英語の「仮定法」に相当し、「もし(仮に)~ であったとしたら、~なのになあ」という非現実の仮定。「Sot(間抜け、ばか)がいなかったら(sans)、

当惑 (embarrassé)してしまうだろう。」語調緩和の際にも用いられる。英訳は以下です。

A clever man would often be very embarrassed without the company of fools.

・sans:~がいなかったら(=英語のwithout)

・compagnie:一緒にいること、集まった人々

・sot:ばか、間抜け

(281)L’orgueil qui nous inspire tant d’envie nous sert souvent aussi à la modérer.

◎高慢さによって、我々は多くの欲求を吹き込まれるが、高慢さは時として、欲求を和らげることにも寄与する。

(訳注)

・orgueil:思い上がり、高慢、うぬぼれ、誇り、自慢の種

・inspirer :吹き込む

・envie :欲求、願望、ねたみ、羨望、

・sert à:serivir à~に寄与する、貢献する、役立つ

・la modérer:modérer(和らげる)の目的語であるlaはenvie(=女性名詞)を受けている。

 以上、「自己愛」(amour propre)をテーマにした箴言を紹介させていただきました。時代を超えて、今を生きる知恵を与えてくれる箴言だと思います。皆様はどのようにお感じになりましたでしょうか。他に取り上げて欲しいとお考えの箴言集「テーマ」がありましたら、お知らせいただけると幸いです。

 本日もお読みいただき、ありがとうございました。

コメントする

CAPTCHA