皆様こんにちは、本日もお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
本日は、モーリス・ロリナ(Maurice ROLLINAT,1846-1903)という詩人の「雌鹿」という詩をご紹介します。生まれはアンドル県シャトルー(Châteauroux,Indre)。彼の父はアンドル県の下院議員を務め、ジョルジュ・サンド(ショパンの恋人)の友人でもあったそうです。
そのせいもあり、若くして詩やピアノ演奏の技術を身につけ、パリ文壇にデビュー後は、自作の詩をピアノで弾き語りするなどしていたそうです。結果的には余り大成せず、精神的にも不安定だったそうです。
全13詩行、また各行8母音の短い詩ですが、3回繰り返される”La biche brame au clair de lune”が非常に印象的です。音楽的で美しく、モーリス・ロリナ自身が弾き語りする姿が目に浮かぶようです。
<引用はじめ>
La Biche
1)La biche brame au clair de lune
◎月の光の下で、雌鹿が鳴いています。
(訳注)
・biche:雌シカ (雄はcerf)。会話では、若い女性の愛称としてma biche(ねえ、おまえ)
・bramer:(発情期に)雄シカが鳴く、(会話で)人がわめく、叫ぶ
・clair de lune:月の光
2)Et pleure à se fondre les yeux :
◎両目が溶け合うほどに涙を流して。
(訳注)
・pleurer à:①pleurer à chaudes larmes 「さめざめと泣く、おいおいと泣く」②à (faire) pleurer「泣きたくなるほど」(例: triste à pleurer「泣きたくなるほど悲しい」)。 ここでは、①で解釈し「両目が涙で溶け合うほど涙を流す」と訳しています。
・ se fondre:溶け合う、融合する、溶け込む
3)Son petit faon délicieux
◎なぜなら、愛らしい小鹿が
(訳注)
・faon:小鹿
・délicieux:非常においしい、とても心地よい、甘美な、素晴らしい、非常に感じの良い
4)A disparu dans la nuit brune.
◎夜の闇のなかで消えてしまったからです。
(訳注)
・brun(e):褐色の、焦げ茶色の、褐色の(黒い)髪をした、肌が浅黒い
5)Pour raconter son infortune
◎この不運を伝えるために、
(訳注)
・infortune:(文学的表現で)不運、不幸、不幸な出来事
6)A la forêt de ses aïeux,
◎先祖代々からの森の中で、
(訳注)
・aïeux:(文学的表現で)祖先
7)La biche brame au clair de lune
◎雌鹿は月の光の下で泣いているのです。
8)Et pleure à se fondre les yeux.
◎涙で両目が溶け合うほどに。
9)Mais aucune réponse, aucune,
◎でも一向に返事がないのです。
(訳注)
・aucun(e):いかなる~もない
10)A ses longs appels anxieux !
◎心配そうな呼びかけを何度もしているのに、一向に。
(訳注)
・appels:呼ぶこと、呼ぶ声、合図、呼び出し、呼びかけ、訴え、上訴、上告
・anxieux :de~をひどく心配している、不安な、(様子などが)不安そうな、
de~したくてじりじりしている。
11)Et le cou tendu vers les cieux,
◎雌鹿は、張り詰めるように首を空へと延ばしながら、
(訳注)
・cou:首
・tendu:(情勢などが)緊迫した、(人・気持ちなどが)緊張した、張り詰めた、
de~を貼った、(ロープなどを)ぴんと張った、(腕などを)差し出した
・vers: ~の方に
・cieux:ciel(空、空模様、天気、天国、気候、風土)の複数形。複数形は、強意的あるいは文学的用法。ここでは文学的用法で解釈。
12)Folle d’amour et de rancune,
◎小鹿への愛と、離れ離れになってしまった後悔とで気も狂わんばかりに、
(訳注)
・folle<fou:気の狂った、自制心を失った、気違いじみた、大変な、調子の狂った。être fou de~①~に夢中になった、惚れ込んだ ②~で狂ったようになった
・rancune:恨み、遺恨
13)La biche brame au clair de lune.
◎月の光の下で鳴いているのです。
<引用おわり>
いかがでしたでしょうか。詩の行数は全部で13行という、余り見かけない形です。1詩行あたりの母音数も8つと少なくなっています。鹿の母子を題材にしていますが、大切なものを失った喪失感や哀感がしみじみと伝わってくる詩ですね。
最後に、詩の全体を一覧いただけるよう、全行をまとめて記載させていただきます。
La biche (Maurice Rollinat)
La biche brame au clair de lune
Et pleure à se fondre les yeux :
Son petit faon délicieux
A disparu dans la nuit brune.
Pour raconter son infortune
A la forêt de ses aïeux,
La biche brame au clair de lune
Et pleure à se fondre les yeux.
Mais aucune réponse, aucune,
A ses longs appels anxieux !
Et le cou tendu vers les cieux,
Folle d’amour et de rancune,
La biche brame au clair de lune.
本日もお読みいただき、ありがとうございました。