第67回 テーマ別(9)ラ・ロシュフコー箴言集

第67回 テーマ別(9)ラ・ロシュフコー箴言集

 本日は、ラ・ロシュフコーの「テーマ別」箴言シリーズ 第58回「知恵」(sagesse)の続きとして、最後の3つ(番号154、157、159)をお送りします。フランス語文左側の( )内の数字が箴言番号、◎が和訳です。

  テーマの「知恵」にふさわしい、簡潔な箴言です。現代に生きる我々にとっても役立つ、正にArt de vivre(生きる術、生活の知恵)そのものです。それでは、お楽しみください。

<引用はじめ>

(154) La fortune nous corrige de plusieurs défauts que la raison ne saurait corriger.

◎運命は、理性によっては我々が克服できない、いくつかの欠点を克服してくれる。

(訳注)

・fortune:財産、富、大金、(文学的表現で)運、運命、偶然

・corriger :直す、訂正する、添削採点する、体罰を与える、緩和する。corriger A de B 「A(人)のB(悪癖など)を矯正する。 例)corriger un enfant de son habitude de mentir「すぐに嘘をつく子供の癖を直す」

・défauts :欠点、欠陥、きず、欠乏、不足、欠席

・ne saurait :ne+savoir条件法+不定詞~「~できない」例)Je ne saurais vous dire qui m’a donné ce livre.「この本を誰が私にくれたのかを言うことはできない。」

➡これは確かにその通りですね。頭であれこれ考えていても考えがまとまらない時や、仕事で行き詰った時などは、想定外の「偶然」「運命」によって、思いもよらず道が開けることがあります。「頭」=理性だけで考えていてはわからない場合には、確かに「運命」「偶然」に身を任せるのも一つの手だと思います。

 ただ、疑問として、この箴言は「fortune(運命・偶然)に100%身を任せっきりにする」という意味なのでしょうか。きっとそうではないと思います。それは主体性の放棄ですね。きっと、行き詰った現状から脱するための、何らかの行動をとった結果として、「運命を(良い方向に)呼び寄せた」のだと思います。

 つまり、「人事を尽くして天命を待つ」という意味です。行き詰まりを打開するために、行動を起こし、後は運に任せる、という意味だと思います。

(157) La gloire des grands hommes se doit toujours mesurer aux moyens dont ils se sont servis pour l’acquérir.

◎偉人の栄光は常に、彼らがその栄光を勝ち得るために自ら用いた手段によって測定されるべきである。

(訳注)

・gloire:栄光、名誉、名声、功績、手柄、(文学的表現で)栄華

・se doit :①se devoir de ~(文学的表現で)~するのは自分の義務である ②doit se mesurer:測定されるべきである、測られるべきである。ここでは②で訳出しました。

第9回ブログでご紹介したLe soleil ni la mort ne se peuvent regarder fixement (太陽も死も、直視できない)と同様です。助動詞pouvoir(英can)の前に再帰代名詞seが来ており、現代であれば、Le soleil ni la mort ne peuvent se regarder fixementの語順になります。

・ mesurer aux<se mesurer à~: à~と力を競う、争う、(en~の基準で)測定される。

・dont il se sont servis <se servir de ~:~を使う、自分で取り分ける、飲食物が出される。dontは、se servire des moyens (~の手段を用いる)のdes moyensが変形した関係代名詞 (英語のwhose、of whom、of which)

・l’acquérir:l’はla gloireを指す。

・acquérir:獲得する。

➡この箴言も含蓄豊かです。「勝てば官軍」ではダメ、ということでしょう。往々にして、「結果良ければすべて良し」となりがちですが、きっとラ・ロシュフコーの時代には、「手段(moyens)を選ばず戦争に勝利し”栄光”を手に入れた偉人(grands hommes)」も多かったのだと思います。

(159) Ce n’est pas assez d’avoir de grandes qualités; il faut en avoir l’art de les mettre en œuvre.

◎優れた長所を持つだけでは不十分であり、それを活用する術(すべ)を持たなければならない。

(訳注)

・ assez :十分な、かなりの (assez de+無冠詞名詞:十分の、かなりの)

・ qualités:質、品質、質の良さ、(多く複数形で)長所、美点

・de grandes qualités:形容詞grandesが複数名詞qualitésの前に来ているためdes→deになっている。

・ en avoir :enはde grandes qualitésを指す。

・ art :技術、術、要領、熟練、芸術、美術。

・ les :grandes qualitésを指す。

・mettre ~ en œuvre:~を用いる、実行する。

➡この箴言もその通りですね。「宝の持ち腐れ」はいけませんね。では、それを活用するにはどうしたら良いでしょうか。当然のことですが、全ての職場でそれが可能になるとは限りません。それが可能になる職場や、活躍の場を自ら求めるという術(すべ=art)を持たなければいけない、ということですね。

 このart(術)とは即ち、まずは行動なのだと思います。300年以上もの時(※著者は1680年没)を隔てて、ラ・ロシュフコーが我々に行動を促してくれている、応援してくれていると考えると、何だか嬉しくなってきますね。

 本日もお読みいただき、ありがとうございました。

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