第83回 「テーマ別」ラ・ロシュフコー箴言集 ・「美徳」(5)

第83回 「テーマ別」ラ・ロシュフコー箴言集 ・「美徳」(5)

 皆様こんにちは、本日も当ブログにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。

 今回は、第80回ブログのラ・ロシュフコー「テーマ別」箴言シリーズ の続きとして、「美徳」(vertue)をテーマとした最後の箴言を3つ紹介します。箴言番号は195、196、200、いずれも「美徳」シリーズの最後を飾るにふさわしい、珠玉の名言です。

 今回も、簡潔なフランス語の文章を通じて「生きる知恵」を学ぶことができます。フランス語文左側の( )内の数字が箴言番号、◎が和訳です。それでは、お楽しみください。

<引用はじめ>

(195)Ce qui nous empêche souvent de nous abandonner à un seul vice est que nous en avons plusieurs.

◎我々がしばしば、一つの悪い癖に身をゆだねずに済むのは、我々がそれを複数持っているからである。

(訳注)
・empêcher:empêcher A de B 「AがBすることを妨げる」
・abandonner:abandonner A à B「AをBに譲る」。s’abandonner à~ 「~に身をゆだねる」「ゆったりする」「楽にする」「戦意を失う」
・vice:悪徳、悪習、欠陥、不備。
・en avons plusieurs:Avez-vous des frères? Oui, j’en en trois.「兄弟はいますか?」「はい、3人」のen(数詞・数量を表す副詞・不定代名詞などを後に伴う)。

(196)Nous oublions aisément nos fautes lorsqu’elles ne sont sues que de nous.

(和訳①:lorsqueを「~の時に」と訳す場合) ◎我々は、自らの欠点が我々だけに知られているときには、その欠点をいとも簡単に忘れてしまうのである。

(和訳②:lorsqueを「~なのに」と訳す場合) ◎我々は、欠点がほかならぬ自分に関してのものであるにも関わらず、その欠点をいとも簡単に忘れてしまうのである。

(訳注)
・aisément:容易に、苦も無く、楽に
・fautes:過ち、過失、間違い、ミス、落ち度、責任、へま、不手際。女性名詞のため、続く「elles ne sont sues」のellesはfautesを指す。
・lorsque:現代語では、「~の時に」。文学的表現では、対立を表して「~なのに」。なお、現代語で対立を表す時は、alors queを用いる。
・ne ~ que:限定を表す。
・su:savoir「知る」の過去分詞。知られた、覚えた、習得した。
・de nous:我々に関して

(200)La vertu n’irait pas si loin si la vanité ne lui tenait compagnie.

◎美徳というものは、虚栄というものが一緒でないならば、余り遠くには行かないものだろう。

(訳注)
・irait pas si loin:iraitはallerの条件法現在形。続くsiは「それほど」。aller loin「遠くまで行く」「度を越す」「(未来形で)出世する、偉くなる」「重大な結果につながる」

・ si la vanité :このsiは「現在の事実に反する仮定」の従属節を導くためのsi。
主節は条件法現在形(=irait)。「現在の事実」とは、ラ・ロシュフコーに言わせれば、「美徳と虚栄は一緒にある」。だからこそ、「美徳は余り遠くには行かない」という論理ですね。
・tenait compagnie à~:~(人)と一緒にいる

<引用おわり>

 いかがでしたでしょうか。「美徳」シリーズの最後を飾るにふさわしい警句だったと思います。

 正直(200)に関しては、いつものように少し斜に構えた感じがしなくもありませんが、(195)(196)は、「言い得て妙」「言われてみれば」「目からウロコ」、何度も噛みしめておきたい名言です。フランス語学習と同時に、「生きる知恵」として血肉としたいものです。

 本日もお読みいただき、ありがとうございました。

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