第93回 “辞書いらず”フランス語 /「テーマ別」ラ・ロシュフコー箴言集 ・「若さと老い」
皆様こんにちは、今回も当ブログにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
今回は、第89回ブログのラ・ロシュフコー「テーマ別」箴言シリーズとして、「若さと老い」をご紹介します。箴言番号は93、109、110、112です。
今回も、簡潔なフランス語の文章を通じて「生きる知恵」を学ぶことができます。フランス語文左側の( )内の数字が箴言番号、◎が和訳です。それでは、お楽しみください。
<引用はじめ>
(93)Les vieillards aiment à donner de bons préceptes, pour se consoler de n’être plus en état de donner de mauvais exemples.
◎老人は良い教え(教訓)を提供したがる。もはや悪い実例を提供できないことから自らを慰めるために。
(訳注)
・ vieillard(s) :①老人 (女性形はvieilleを用いる。文語または蔑称では稀にvieillardeの形もある) ②(複数形で、男女を含めた)老人 (高齢者は、personnes âgées)
・ préceptes:(道徳、宗教、技芸などの)教え、戒律、おきて
・ se consoler de :①de~から立ち直る、自らを慰める ②慰めあう
・ en état de~(物/不定詞):~することができる
➡何かに挑戦する時に、勇気を与えてくれる言葉です。即ち、老人になって挑戦しなくなると、「何かに挑戦して失敗した」という「悪い経験談」でさえ、他人(特に若者)に対して与えられなくなるということですね。自分自身の経験を与えられないので、その代わりに、既に世の中にある「良い教え」(bons préceptes)を与える方を好む、というわけです。
逆に言えば、何かに挑戦して「失敗例」を他人に与えられることは、非常に価値あることだと思います。その意味では、「老人」ではない訳です。勇気づけられる言葉です。
(109) La jeunesse changes ses goûts par l’ardeur du sang, la vieillesse conserve les siens par accoutumance.
◎若者は、血の情熱によってが好みを変化させる。老人は、慣れによって好みを温存する。
(訳注)
・ardeur :①熱意、熱烈な気持ち、情熱 ②(文学的表現で)燃えるような熱さ ③(複数形、文学的表現で)恋の情熱
・sang:①血、血液 ②(殺人などの)流血 ③血筋、血統
・la vieillesse :①老年、老年期 ②老い、老化 ③(集合的に)老人、高齢者 ④(物の)古さ、老朽化
・conserver:保存する、保つ
・les siens :goûts(①味、風味、味覚、食欲、意欲 ②(de・pour~への)好み、嗜好
③美的センス
・accoutumance:適応、慣れ、(薬物・アルコールなどへの)慣れ、耐性、依存
➡「若者=変化」と「老人=保守」の簡潔な対比が良いですね。昔はそれが自然だったと思います。さて、今は? 世の中に飛び交う情報量がけた違いに増えている訳ですから、老人であっても、「血の情熱」がなくても好みを変化させる機会・チャンスは沢山あると思います。箴言(109)と同様、「変化」していきたいですね。
(110)On ne donne rien si libéralement que ses conseils.
◎人は、忠告ほどには何ものも気前よく与えることはない。
(訳注)
・ si … que~ :~ほど…ではない (否定文・疑問文でaussiの代わりに用いられる)
・libéralement :気前よく
・conseils:①忠告、助言、アドバイス ②顧問、コンサルタント ③会議
➡前後の文脈が無くても意味が明確な箴言も多いですが、この箴言はそうではなく、前後ちょっと分かりにくいですね。フランス語の理解のために、やや堅苦しく直訳すれっば、「人は、他人に気前よく忠告を与えるほどには、何ものも与えない。」となるでしょうか。
意訳すれば、「忠告ほど気前よく与えるものはない」。つまり、「おせっかいの忠告を与えたがる」ということですね。
(112)Les défauts de l’esprit augmentent en vieillissant comme ceux du visage.
◎知性の欠陥は、年と共に増えていく。顔のしみが増えていくように。
(訳注)
・défaut(s) :欠点、欠陥、くず、欠乏、(宝石・布地などの製品の)きず。
・esprit :精神、頭、意識、知性、頭脳、才気、機知、エスプリ、気性、才覚、想像力
・augmentent<augmenter:値上がりする、増える
・en vieillissant :vieillir(老いる)の現在分詞 ~老いながら
・ceux :défautsを指す。最初のdéfautsは「欠陥」、二度目のdéfauts(=ceux)は「きず」と訳しています。「顔の欠陥」とは訳として不自然ですので。他の訳としては「顔のしみ」などでも良いと思います。
・visage:顔
➡espritは「精神」ではなく、「知性」や「頭脳」と訳した方が自然だと思います。良く言われる「老化にともなう記憶や判断力の低下」です。全くもって「言い得て妙」なのですが、是非とも、なるべくそうならないように努力したいですね!
<引用おわり>
いかがでしたでしょうか。「こういう年の取り方はしたくない」という良い例だったと思います。「才気あふれる賢者の知恵」をフランス語で学べる醍醐味の一つだと思います。本日もお読みいただき、ありがとうございました。