第15回 Raymond QUENEAU “Exercices de style”

第15回 Raymond QUENEAU “Exercices de style”

皆様こんにちは、今回もご訪問いただき、ありがとうございます。

前回までは少し堅い話を紹介させていただきましたので、少し肩が凝ってしまったかもしれません。今回は、少しくだけて、思わず「くすっ」と笑ってしまう楽しいお話を紹介します。

1947年に発表された、レイモン・クノーの「文体練習」という小説からの抜粋です。今から引用させていただくシンプルなストーリーが、99通りのスタイルの文章でつづられています。驚き、哲学、半過去、夢想、ためらい、公文書、ソネット(14行詩)、短歌など、「これでもか」という位の様々な文体が登場します。99もの文章・文体を読み比べると、フランス語の表現力の豊かさを笑いと共に実感できます。

<引用はじめ> (下記ストーリーは筆者による和訳です)

『語り手がバスの中で、一人の首の長い若い男に出会う。その若い男はリボンの代わりに組み紐で飾られた帽子をかぶっていた。若い男は別の乗客と激しく口論していたが、その後、空いた席へ向かい着席した。

しばらくして、語り手は同じ若い男に出会った。その若い男は友人と夢中になって話し込んでいた。その友人は若い男に対し、オーバーコートの上のボタンを補充することを助言していた。』

<引用おわり>

それでは、5つの「文体」を紹介させていただきます。

1)半過去 (Imparfait):

C’était midi. Les voyageur montaient dans l’autobus. On était serré注1. Un jeune monsieur portait sur sa tête un chapeau qui était entouré注2 d’une tresse et non d’un ruban. Il avait un long cou. Il se plaignait注3 auprès de注4 son voisin des heurts que ce dernier lui infligeait注5. Dès qu’il注6 apercevait注7 une place libre,il se précipitait注8 vers elle et s’y asseyait注9.

  Je l’apercevais plus tard, devant la gare Saint-Lazare.IL se vêtait注10 d’un pardessus et un camarade qui se trouvait là lui faisait cette remarque : il fallait注11 mettre un boutton supplémentaire注12.

注1)serré:窮屈な 注2)entouré de~:~で囲まれた 注3)se plaignait de~:se plaindre de~「~の不平を言う」の半過去 注4)auprès de~:~に対して 注5)infligeait:infliger(罰などを与える、押し付ける)の半過去。「heurt(衝突)を押し付ける」→ぶつかってくる。注6)Dès que~:~するとすぐに 注7)apercevait:apercevoir(見かける)の半過去。s’apercevoirは「気づく」。注8)se précipitait:se précipiter(駆け寄る)の半過去。注9)s’y asseyait: s’asseoir(座る)の半過去。yはplace libreを指す。注10)se vêtait :se vêtir(服を着る)の半過去。注11)fallait:falloir(非人称動詞)の半過去。If faut+動詞~:~しなければならない。注12)supplémentaire:追加の

以上が「半過去」をベースにした「文体」です。次に、同じ内容を「単純過去」で表現した文章を紹介します。「単純過去」という時制は、日常会話では出てこないため少々厄介ですが、同じ内容のストーリーを二つの時制(半過去と単純過去)で読み比べてみると、「こんなものか」と感じられ、不思議と苦手意識が薄まります。

ストーリーの流れや、主な単語の意味は上記1)の通りですので、これから2)以降でご紹介するいくつかの「文体」につきましては、余り単語の意味や時制を気になさらずに、文体の違いを楽しんでいただければと思います。

2)単純過去 (Passé simple):

Ce fut midi. Les voyageurs montrèrent dans l’autobus.On fut serré. Un jeune monsieur porta sur sa tête un chapeau entouré d’une tress, non d’un ruban.Il eut un ling cou.Il se plaignit auprès de son voisin des heurts que celui-ci lui infligea.Dès qu’il aperçut une place libre, il se précipita vers elle et s’y assit.

   Je l’aperçus plus tard devant la gare Saint-Lazare. Il se vêtit d’un pardessus et un camarade qui se trouva là lui fit cette remarque : il fallut mtettre un bouton supplémentaire.

動詞の時制を除き、他の単語はほぼ1)と同様です。1)と2)を対比しながらお読みいただくと、フランス語の文法の「半過去」と「単純過去」の違いが、辞書で眺めるよりも分かり易いと思います。

3)アレクサンドラン (Alexandrins):

Un jour, dans l’autobus qui porte la letter S,

Je vis un foutriquet de je ne sais quelle es-

Pèce qui râlait bien qu’autour de son turban

Il y eût de la tresse en place de ruban.

(以下、省略。各行12の母音で構成される詩行が、このあと12行続き、合計16行の詩となっています。)

4)ソネット (Sonnet):

   Glabre de la vaisselle et tressé du bonnet,

   Un paltoquet chétif au cou mélancolique

   Et long se préparaît, quotidienne colique,

   A prendre un autobus le plus souvent complet.

   (以下、省略。上記のアレクサンドランと似ていますが、各行12の母音で構成される詩行がこのあと10行続き、全部で14行のソネットとなっています。)

5)短歌(Tanka):

    以下は思わず吹き出してしまう言葉遊びとなっています。5行それぞれの母音の数は、日本の短歌と同様に5 7 5 7 7 となっています。

   L’autobus arrive

  Un zazou à chapeau monte

      Un heurt il y a

    Plus tard devant Saint-Lazare

     Il est question d’un bouton

 以上、99の文体の中から、5つのみ紹介させていただきました。

 今回もお読みいただき、ありがとうございました。

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