第54回 ジャック・プレヴェール 「公園」(詩集“Paroles”より)

第54回 ジャック・プレヴェール Jacques Prévert “Le Jardin”(“Paroles”)

 皆様こんにちは、本日もお立ち寄りいただき、ありがとうございます。

 今日も第52回に続き、ジャック・プレヴェールの素敵な詩をご紹介します。詩のタイトルはLe Jardin(公園)。冬の終わり、春の暖かさを感じる明るい日差しの中でのんびり読んでいると、その魅力に吸い込まれていきました。

 調べてみると、この詩はフランスの大学入試(バカロレア)対策用と思われるウェブサイト(第45回ブログ、ボードレールの散文詩「異邦人」の掲載サイト)にも取り上げられていました。

 第52回のブログで紹介した作品「朝食」のように、それこそカフェオでも飲みながら「気軽に」読んでいましたので、大学受験のサイトに掲載されるほど文学的価値の高い詩であるとは、思いもよりませんでした。第52回もそうでしたが、是非、自由に楽しんでいただいた後に、3)の種明かしをお読みいただければと思います。

1)一瞬の永遠:

 この詩で一番素晴らしいと思うのは、「一瞬の永遠」(la petite seconde ‘éternité)という「重い」言葉の前に、プレヴェールがpetit(小さな)という形容詞をつけ、「重い」内容にややくだけたニュアンスを添えて表現していることです。

 「言葉が、目の前の情景と心のあり様を、一瞬で切り取って静物画のように保存してくれている」とでも表現すべきでしょうか。もちろん、これは私の「自由な」けれども「浅い」理解です。理由は、3)の種明かしで明らかになります。それでは以下、引用です。

<引用はじめ>

   Le Jardin

Des milliers et des milliers d’années

◎何千年という時をもってしても、

(訳注)

・des milliers de~:(複数形で)多数、des milliers d’étoiles「無数の星」

Ne sauraient suffire

◎「一瞬の永遠」を語るには十分ではないだろう。

(訳注)

・Ne sauraient:savoirには「知る、知っている」という意味と、直後に不定詞を伴って「~することができる」という意味があります。また、ここでの事例のように、「ne + savoirの条件法 +不定詞~」で「~できない」を少し遠まわしに表現します(語調緩和)。例)Je ne saurais te dire qui m’a donné ce livre 「この本を誰からもらったのかは言えません。」

Pour dire

La petite seconde d’éternité

(訳注)

・ seconde:一瞬、短い時間

・ éternité:永遠性

Où tu m’as embrassé

Où je t’ai embrassée

◎君と僕が抱きあった「一瞬の永遠」を語るには。

(訳注)

・embrassé<embrasser:キスする、接吻する

Un matin dans la lumière de l’hiver

Au parc Montsouris à Paris

◎冬の光に包まれた朝

パリのモンスーリ公園にて。

À Paris

Sur la terre

La terre qui est un astre.

◎パリの大地、、、天体そのものである大地にて。

Jacques Prévert, Paroles

<引用おわり>

2)当事者は誰?

 「君と僕が抱きあった一瞬の永遠」と訳しましたが、この当事者は必ずしも愛し合う男女だけを想定して読まなくても良いと思います。例えば、小さな子供を抱きかかえてキスする時の、何とも言えない幸せな気持ちを想像しながらこの詩を読むのも楽しいと思います。

 次の3)で種明かしいたしますが、当事者を恋人同士と考えるにせよ、子供をいつくしむ親と考えるにせよ、この詩が「幸せなひととき・気持ち」に満ち溢れていることに変わりはありません。

3)分析・解説 ~公園はどこ?~

 フランスのウェブサイト”bacdefrancais”による分析・解説は、上記の私の「自由な」解釈 (・・・それはそれで、楽しいのですが・・・)の想定を遙かに超える、ものすごいものでした。

 種明かしですが、詩に描かれた「公園」(Jardin)は、実は聖書の「楽園」(エデンの園)を参照させるものだそうです。ただし、宗教的な意味ではなく象徴的な意味として。以下、フランスのウェブサイトにおける解説の原文を、括弧内で引用させていただきます。(La scène se passe « Au parc Montsouris à Paris » -> renvoie au jardin d’Eden (sans valeur religieuse mais seulement symbolique).

 詩全体にただよう、何とも言えない幸せな感じは、確かにプレヴェールが表現しようとしたものです。(Prévert essaye d’exprimer une chose délicate : le bonheur.)

 けれども、その「幸福な瞬間」は、一瞬の短い時間しか続きません。(Le moment heureux ne dure finalement qu’une « petite seconde ») とはいえ、この短い一瞬は、愛によって満たされているため永遠である、とされています。(Cette seconde est éternelle car elle a été remplie d’amour.)

 これこそが、愛の力で(pouvoir de l’amour)であり、だからこそ、それは人生における他の時間(seconde)とは異なる(Elle est donc différente des autres secondes de la vie.)、と説明されています。音楽的で滑らかな(musicale et fluide)短い詩の中に、何とも壮大な世界を読み取ることもできるものですね。

 でも、上記の「種明かし」は、もしかした「模範解答」かもしれません。模範解答以外にも、自由な解釈が許されて良いと思います。

 というのも、以前、ある作家が、自分の小説が受験の現代文として出題された際に、「著者の気持ちとして正しいものを以下の選択肢の中から選べ」という問題を正解できなかった、という笑い話を読んだことがあります。つまり、「模範解答」に拘る必要は無いと思う次第です。

 途中で原文と翻訳がとぎれとぎれになってしまいましたので、最後にまとめて記載させていただきます。

     Le Jardin

Des milliers et des milliers d’années

Ne sauraient suffire

Pour dire

La petite seconde d’éternité

Où tu m’as embrassé

Où je t’ai embrassée

Un matin dans la lumière de l’hiver

Au parc Montsouris à Paris

À Paris

Sur la terre

La terre qui est un astre.

◎何千年という時をもってしても、

「一瞬の永遠」を語るには十分ではないだろう。

 君と僕が抱きあった「一瞬の永遠」を語るには。

 冬の光に包まれた朝

 パリのモンスーリ公園にて。

 パリの大地、、、天体そのものである大地にて。

 以上、本日もお読みいただき、ありがとうございました。

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