第57回 ジェラール・ド・ネルヴァル / リュクサンブール公園の小道で

第57回 ジェラール・ド・ネルヴァル / リュクサンブール公園の小道で

 皆様こんにちは、本日もお立ち寄りいただき、ありがとうございます。

 今回は、19世紀に活躍したフランスのロマン主義詩人「ジェラール・ド・ネルヴァル」(Gérard de Nerval, 1808年 – 1855年)の詩を紹介します。詩集Odelettes (1853)に含まれる晩年の作品です。

 ネルヴァルはゲーテ『ファウスト』のフランス国内への紹介・翻訳や、『ドイツ詩選』の執筆など、新しいドイツ文学の紹介者としても活躍しました。特に彼が20歳の時に翻訳した『ファウスト』は、作者のゲーテ自身も非常に高く評価。47才で悲劇的な死を迎えますが、作曲家のベルリオーズがこの翻訳からオペラ『ファウストの劫罰』の着想を得るなど周囲に大きな影響を与えています(Wikipediaより)。

 今回ご紹介する詩は全部で12行と短く、前半は若い女性が、弾む足取りで歩む姿が目に浮かぶ可愛らしい描写となっています。

 ですが後半は一転します。お読みいただいて直ぐ分かるように、「今を生きる、楽しむ」ことの大切さを痛感させてくれる詩です。詩の形式ではなく内容そのものについて言えば、名作に対し不遜ではありますが、「反面教師」とさえ言えるかもしれません。

<引用はじめ>

Une allée du Luxembourg

Elle a passé, la jeune fille

Vive et preste comme un oiseau

À la main une fleur qui brille,

À la bouche un refrain nouveau.

◎小鳥のように生き生きとした、若い女性が、急ぎ足で通りかかった。

 手にはまばゆい光を放つ花をたずさえ、新しいメロディーを口ずさみながら。

(訳注)

・Vive<vif:活発な、生き生きとした、激しい、怒りっぽい。

・allée:並木道、(庭園などの)小道。

・preste:(文)敏捷な、素早い。

・briller:輝く、光る、目立つ

・refrain:歌・詩などのリフレイン、同じ文句の繰り返し

C’est peut-être la seule au monde

Dont le coeur au mien répondrait,

Qui venant dans ma nuit profonde

D’un seul regard(少女の視線?) l’éclaircirait !

◎この女性はきっと、私の深い心の闇を訪れてくれるのであれば、私の心に対して答えてくれるこの世で唯一の心の持ち主なのでしょう。また、私を一目見てくれさえすれば、私の心の闇が照らされることでしょう。

(訳注)

・nuit:夜、(文学的表現で)闇 →心の闇

・répondrait<répondrait:répondre(答える)の条件法現在形。下記éclairciraitと同様に、「現在の事実に反する仮定」を表す(=実際には答えてくれない)。

・l’éclaircirait: l(a)はma nuit(私の心の闇)を指す。éclairciraitはéclaircir(疑問点などを解明する、色などを明らかにする、森を間伐する)の条件法現在形。英語の仮定法。「彼女が私の心の闇を訪れてくれる」というのは事実に反する(=訪れてくれることはない)仮定を、条件法現在形で表現しています。第18回ブログで紹介したヴェルレーヌの詩MON RÊVE FAMILIER(よく見る夢)にも似た内容(※)であり、詩人らしく「思いつめる」傾向が表れているように思います。

・venant:venir(来る)の現在分詞形。直訳すると「私の深い心の闇にやって来ながら。」

・D’un seul regard:一目見ただけで (cf.d’un seul coup「一撃で」)。

(※)Car elle me comprend, et mon cœur transparent / Pour elle seule, hélas! Cesse d’être un problème(なぜなら、彼女は私を理解してくれるため、私の心は、彼女のためだけなら、透き通り、抱えている問題が雲散霧消するのです)

Mais non, — ma jeunesse est finie…

Adieu, doux rayon qui m’as lui, —

Parfum, jeune fille, harmonie…

Le bonheur passait, — il a fui !

Gérard de Nerval.

◎いいえ、とんでもない。私の青春時代は終わっているのです。さようなら、私の上に輝いていたやさしい光、香水の香り、若い女性、調和よ!

幸福は過ぎ去り、逃げてしまったのです!

(訳注)

・lui<luire:光る、輝く、(文学的表現で)物事が輝いて見える

・fui<fuir:逃げる、(水やガスが)漏れる、(文学的表現で)時が過ぎ去る、川が流れ去る。

<引用おわり>

 いかがでしたでしょうか。全部で12行、各行の母音は8音と少なく、わびしい印象を受けます。詩人が目にした情景が目に浮かぶような、素晴らしい詩ですが、最後の4行はちょっと悲しいですね。偉大な詩人が我々凡人に代わって悩んでくれている、毎日を悔いなく生きることの大切さを教えてくれている、そんな読後感を味わわせてくれる詩だと思います。

 本日もお読みいただき、ありがとうございました。

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