第58回 テーマ別(8)ラ・ロシュフコー箴言集
本日は、ラ・ロシュフコーの「テーマ別」箴言シリーズ 第55回「知恵」(sagesse)の続きをお送りします。
Jean-Marie André氏により「知恵」に分類された9個のうち、3つの箴言(番号132、147、153)を紹介します。フランス語文の左側に付したカッコ内の数値が箴言番号、◎が和訳です。
(132) Il est plus aisé d’être sage pour les autres que de l’être pour soi.
◎他者のために賢くあることは、自分のために賢くあることよりも容易である。
(訳注)
・plus A que B: BよりもAである
・aisé:容易な、余裕のある、(動作などが)自然な、のびのびした
・l’être:「l」はsage(賢明な)という状態を表す中性代名詞 (属詞)。例)Son père est avocat et elle veut le devenir aussi「彼女の父は弁護士であり、彼女も弁護士になりたがっている。」
➡「知恵」というテーマに即して解釈すると、他人に自分の賢明さを誇示するよりも、それを抑制すること(=自分のために賢くあること)の方が難しい、という解釈もできると思います。つまり、「自制」という「知恵」なのだと思います。
(147) Peu de gens sont assez sages pour préférer le blâme qui leur est utile à la louange qui les trahit.
◎自分に向けられた賛辞が実態を伴わない場合であっても、賛辞よりも自分の役に立つ叱責のほうを好むほど優れた英知を持つ人というのは稀である。
(訳注)
・Peu de~:あまり~ない
・blâme:叱責
・louange:賛辞
・préférer A à B:AよりBを好む。英語のprefer A to Bと同じ。ここではA(=blâme叱責)をB(=louange賛辞)よりも好む人は稀、という意味。
・trahit<trahir :裏切る、秘密を暴露する
➡この箴言は、第9回ブログでは単純に私の好みで紹介しておりましたが、今回はJean-Marie André氏による分類に従っています。「知恵」(sagesse)という言葉が直接出てくる箴言ですが、「知恵」というテーマに分類していただいた後にあらためて読むと、すっきりする警句だと思います。私の翻訳は、フランス語理解のために少々直訳に過ぎる傾向がありますので、以下、もっと理解し易い二宮フサ氏の名訳も併せてお届けします。
「自分をあざむく賛辞よりも、自分のためになる非難を喜ぶほど賢明な人は、めったにいない。」
確かに、「自分のためになる」叱責というのは、なかなかすんなりとは聞き入れるのは難しいですね。そういう「賢明な」人は、どれくらいいるのでしょうか。。。
(153)La nature fait le mérite et la fortune le met en œuvre.
◎気質が特技を生み、運命がそれ(特技)を活用する。
(訳注)
・nature:自然、自然界、本性、性質、性格、体質、実物
・mérite:功績、手柄、長所、取り得、勲章
・fortune:財産、富、(文学的表現で)運、運命、偶然
・ le :le mérite(男性名詞)を指す
・met en œuvre<mettre en œuvre :~を活用する
➡上記は私の解釈ですが、もう少し現代風に解釈すると、「自分の性格に合った道で長所を伸ばし、運命の力を借りてそれ(長所)を活用する」という意味になるでしょうか。La nature(気質)に沿って運命を切り開くという「知恵」。そんな風に解釈すると、何だか不思議と道しるべを与えらるような気がします。
なお、二宮フサ氏の訳では「自然が麗質をつくり、運命がそれを活かす」となっていました。Natureを「自然」、mériteを「麗質」(=うるわしい素質、容姿が生まれつき美しいこと。生まれつきの美人)と訳されています。素晴らしい訳ですね。
一方、Jean-Marie André氏による「知恵」というテーマ分類に即して解釈すれば、私の解釈も通るのではと思います。他の箴言もそうですが、「文脈」がありませんので、そこは好みの解釈で良いのではと思います。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。