第77回 テーマ別 ラ・ロシュフコー箴言集 ・ 美徳(3)

第77回 テーマ別(12)ラ・ロシュフコー箴言集 ・ 美徳(3)

 皆様こんにちは、今回も当ブログにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。

 今回は、ラ・ロシュフコーの「テーマ別」箴言シリーズ 第74回の続きとして、「美徳」(vertue)をテーマとした箴言の続きをご紹介します。箴言番号は78、118、119、120です。
 
 今回も、簡潔なフランス語の文章を通じて「生きる知恵」を学ぶことができます。フランス語文左側の( )内の数字が箴言番号、◎が和訳です。それでは、お楽しみください。

(78) L’amour de la justice n’est en la plupart des hommes que la crainte de souffrir de l’injustice.

◎正義を愛する気持ちは、大抵の人間の場合、不正義に苦しむことを恐れる気持ちに過ぎない。

(訳注)
・amour:愛、愛情、愛着、好み、恋愛、発情、愛する人
・justice:公正、正義、公平、裁判、裁き、司法、司法警察、正義の女神(Justice)
・en la plupart des hommes :cf.dans la plupart des cas「たいていの場合」。plupartは「大部分の」「大多数の」
・n’est ~ que :限定表現「~しかない」
・crainte :恐れ、不安、(複数形で)心配・危惧
・souffrir:苦しむ
・injustice:不正、不当、不公平、不当な行為

➡「ちくっ」と来る警句ですね。「正義」というものに金科玉条の如き価値を置くことを、戒めています。

 言い換えますと、「正義」は普遍的な価値という訳ではなく、injustice(不正義、他者からの不当な行為)を恐れることによる、つまり個人的な利害の裏返しだという訳です。「正義」は今日でも色々な場面で語られる言葉ですので、考えさせられます。

(118)L’intention de ne jamais tromper nous expose à être souvent trompés.

◎決して人を騙すまいと意図することによって、我々はしばしば騙されてしまう。

(訳注)
・intention:意図、意向、もくろみ、目的、方針
・tromper:だます、欺く、(夫・妻などを)裏切る、(監視・追跡などの)裏をかく、(物が主語で)判断を誤らせる、(空腹・退屈・悲しみなどを)まぎらす、(文学的表現で)期待などを裏切る。
・nous expose à:exposer「展示する・陳列する」「述べる・示す」「(熱・光などに)当てる」「(人を危険などに)さらす」「à~の方向に向ける」。直訳すれば、「騙されるという状態に我々をさらす」

➡うがった見方をすれば、「正直であろうとすることよって、不正直な人々に騙されることになるから注意が必要」ということかもしれません。

 あるいは、「人に騙されないようにするには、ある程度、人を騙すこともやむを得ない」という意味でしょうか。前後の文脈が無いので、ちょっと解釈が難しいですね。

 宮廷生活における権謀術数の数々を目の当たりにする中で、「綺麗ごとだけでは世の中は渡れない」という実感をこの箴言に込めたのかもしれません。自由に想像をふくらませる楽しみがありますね!

(119)Nous sommes si accoutumés à nous déguiser aux autres qu’enfin nous nous déguisons à nous-mêmes.

◎我々は他人に対して自らを偽ることに余りにも慣れているため、結局我々は自分自身に対しても自らを偽ってしまう。

(訳注)
・si~que: あまりに~なので・・・
・accoutumés à ~:à ~に慣れた、いつもの、例の。
・déguiser :変装させる、~の格好をさせる、(欺くために)変える、(文学的表現で)偽る。se déguiser en~「~に変装する」「奇抜な格好をする」

➡これも耳の痛い話です。「他人に対して自らを偽る」のは処世の術としてやむを得ないとしても、「自分に対して自分を偽る」ことはやめておこう、という戒めだと思います。これは、ロシュフコー自身の自戒だったのかもしれません。

(120)L’on fait plus souvent des trahisons par faiblesse que par dessein formé de trahir.

◎我々が人を裏切るのは、しばしば「裏切ろう」という明確な意図によるのではなく、「弱さ」によることのほうが多い。

(訳注)
・plus A que B:(比較をあらわし)BよりAである。
・trahisons:裏切り
・faiblesse :弱さ
・dessein :(文学的表現で)意図、もくろみ。例)dans le dessein de+不定詞~「~するつもりで」「~の目的で」※dessin「デッサン、素描、デザイン、図柄、製図、図面、輪郭」と混同しやすいので注意が必要です。
・formé :形づくられた、できあがった、成熟した。
・trahir:裏切る

➡この箴言も、今日でも全く色褪せない名言だと思います。新聞やテレビで日々報道される「不正」事案を、「法令や慣習、正義に対する”裏切り”」と解釈すれば、この箴言の重みと、時代を超えた価値を再認識できると思います。

 本日もお読みいただき、ありがとうございました。

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