第86回 “辞書いらず”フランス語 /「テーマ別」ラ・ロシュフコー箴言集 ・「権力」(2)

第86回 “辞書いらず”フランス語 /「テーマ別」ラ・ロシュフコー箴言集 ・「権力」(2)

 皆様こんにちは、今回も当ブログにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。

 今回は、第84回ブログのラ・ロシュフコー「テーマ別」箴言シリーズ続きとして、「権力」(pouvoir)をテーマとした箴言の残りを紹介します。箴言番号は166、170、171、190、192です。

 今回も、簡潔なフランス語の文章を通じて「生きる知恵」を学ぶことができます。フランス語文左側の( )内の数字が箴言番号、◎が和訳です。それでは、お楽しみください。

<引用はじめ>

(166)Le monde récompense plus souvent les apparences du mérite que le mérite lui-même.

◎人はしばしば、長所そのものよりも、長所の見栄えの方に報いる。

(訳注)
・récompenser :報いる、ほうびを与える。
・apparences :外観、外見、風采、体裁。
・mérite :功績、手柄、ほめるべき点、長所、取り得、価値、能力、(宗教)功徳

➡貴族社会において「体裁」「見栄え」が重視される場面が多いことから得られた箴言でしょうか。

(170)Il est difficile de juger si un procédé net, sincère et honnête est un effet de probité ou d’habileté.

◎潔く、誠実で正直な態度が、「誠実さ」から来るものなのか、それとも「意図された計画」から来るものなのかを判断するのは難しい。

(訳注)
・procédé :①方法、やり方、型にはまったやり口 ②(他人に対する)振る舞い、態度。
・net:①はっきりした、明確な、鮮明な ②綺麗な、清潔な、汚れていない、正味の、掛け値なしの
・effet:結果、効果、作用、影響、(薬の)効き目、印象、感じ、(美的・心理的な)効果
・probité :誠実、実直、廉潔
・habileté:器用さ、巧みさ、(多く複数形で、仕事などの)巧みさ。ここでは、「意図された計画」と訳しました。

➡この箴言も、いかにも貴族社会、特に社交界での立ち居振る舞いを想起させるものですね。

(171)Les vertus se perdent dans l’intérêt, comme les fleuves se perdent dans la mer.

◎美徳は私利私欲の中に失われていく、ちょうど大河が海の中に消えていくように。

(訳注)
・se perdent:perdre(失う)の代名動詞。①失われる、消える、すたれる、滅びる②道に迷う、途方に暮れる ③腐る、変質する ④(dans~に)こだわる、没頭する:
・intérêt:①興味、関心 ②面白さ、重要性 ③(人に対する)好意、関心 ④利益、得 ⑤(複数形で)利害 ⑥私利私欲 ⑦利息、利子
・fleuves:大河、(文学的表現で、比喩的に)流れ

➡権謀術数うずまく貴族社会においては、「美徳」ははかないものなのですね。貴族社会においてはそうかもしれませんが、普通の社会を考えた場合には、どうなのでしょう。「intérêt(私利私欲)を伴わない美徳」というのは、「親の子供に対する無償の愛」くらいなのかもしれません。

(190)Il n’appartient qu’aux grands hommes d’avoir de grands défauts.

◎大きな欠点を持つということは、偉大な人物にだけ許されることである。

(訳注)
・Il:de~以下を指しています。英語の「It is … to~」のような文章で、Itがto~以下を指すイメージです。
・n’~ qu’:限定「~だけ」を表す。
・appartient<appartenir à~:~のものである、~に属する。Il appartient à(人) de+不定詞~「(非人称構文で)~するのは人の義務(権限)である」
・défauts:欠点

➡この箴言には賛否両論あると思います。「清濁併せ持つ」ことが良しとされた一昔前であれば、諸手を挙げて賛成する人も多かったと思います。一方、昨今の「コンプライアンス」の社会においては、ちょっと微妙かもしれませんね。

(192)Quand les vices nous quittent, nous nous flattons (de la créance) que c’est nous qui les quittons.

◎悪癖が我々を去ると、我々は自信過剰から「悪徳が我々を去ったのは、我々が悪徳を断ち切ったからなのだ」と自画自賛する。

(訳注)
・vices :悪徳、悪習、悪癖、背徳、欠陥、不備
・nous flattons<se flatter de+不定詞/que+直説法:(代名動詞)~するのを自慢する、自画自賛する、~できると公言する。
・créance:債権(証書)、信任(lettre de créance:外交官の信任状)、(古い用法で)信用・信頼。この「de la créance」は、「我々自らの自信過剰から」と訳しました。

・c’est nous qui les quittons~:(強調構文)「~したのは他ならぬ我々なのである。」lesはvicesを指す。最初のquittentの主語はvices、二番目のquittonsの主語はnousですので、「我々が悪癖を去った」➡「我々が悪癖を断ち切った」と訳しました。

➡この箴言は、ちょっと分かり辛いですね。「悪徳が我々を去る」のと、「我々が悪徳を去る(=断ち切る)」との違い良く分かりません。ラ・ロシュフコーは、具体的にどのような場面をイメージしていたのでしょうか。

 本日もお読みいただき、ありがとうございました。

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