第91回 “辞書いらず”フランス語 /「テーマ別」ラ・ロシュフコー箴言集 ・「若さと老い」
皆様こんにちは、今回も当ブログにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
今回は、ラ・ロシュフコー「テーマ別」箴言シリーズとして、「若さと老い」をご紹介します。箴言番号は261、271、341、372です。いつも通り、各「テーマ」の初回は、分類者であるJean-Marie André氏による「巻頭言」からご紹介します。
今回も、簡潔なフランス語の文章を通じて「生きる知恵」を学ぶことができます。フランス語文左側の( )内の数字が箴言番号、◎が和訳です。それでは、お楽しみください。
<引用はじめ>
La jeunesse et la vieillesse : en vieillissant on devient plus fou, et plus sage
◎若さと老年期:人は老いながら、より狂い、そしてより賢明になる。
(訳注)
・vieillesse :①老年、老年期 ②老い、老化 ③(集合的に)老人、高齢者 ④(物の)古さ、老朽化
・vieillissant :vieillir(老いる)の現在分詞 ~老いながら
・fou:狂った
(261) L’éducation que l’on donne d’ordinaire aux jeunes gens est un second amour-propre qu’on leur inspire.
◎若者に与えられる教育とは、一般に、彼等へ吹き込まれる第二の自尊心である。
(訳注)
・d’ordinaire :普通は、一般に
・amour-propre :自尊心、プライド、うぬぼれ
・inspire:吹き込む
➡ラ・ロシュフコーが意図している「教育」の内容や位置づけ(自由学芸=artes liberalesと奴隷学芸=artes servilesの違いなど)については、この箴言だけからは分かりません。ですが、確かに「教育」によって自尊心やプライドが生まれるという面はありますね。
(271) La jeunesse est une ivresse continuelle : c’est la fièvre de la raison.
◎青年期とは、絶え間ない酩酊である。それは、理性の発熱である。
(訳注)
・ivresse :酔い、酩酊、酔いしれること、夢中、忘我(恍惚)状態
・continuel(le) :絶え間ない、頻繁な
・fièvre :熱、興奮、熱気、(de~に対する)熱望・熱中、熱病
・raison:理性
➡よく言われる話ですが、青年期(の情熱)が「発熱」として戒められている点は、少し耳の痛い話ですね。
(341)Les passions de la jeunesse ne sont guère plus opposées au salut que la tiédeur des vieilles gens.
◎若者の情熱が、年老いた人々の情熱の無さに比べて、「救済」の邪魔になるなどということはほとんどない。
(訳注)
・passions :情熱、情熱的な愛、(de~に対する)熱中、情念、激情、受難
・ne ~ guère :あまり~でない、ほとんど~ない。
・plus ~ que :queは la tiédeurの前のque。
・opposées à~ :~に対立する。ここでは、「救済に対立する」つまり「救済の邪魔になる」と訳しています。
・salut :救済、救い
・tiédeur: なまあたたかさ、ぬるいこと、熱意のないこと、不熱心、無関心
➡年老いた人々にありがちな「情熱の無さ」(無関心)こそが、宗教的な「救済」に必要と思われがちだが、若者の情熱も「救済」とは無縁ではない、ということですね。若者の情熱を擁護してくれている箴言です。
(372) La plupart des jeune gens croient être naturels, lorsqu’ils ne sont que mal polis et grossiers.
◎大半の若者は、自らを「自然体である」と考えている。実際には、「礼儀に欠けて無作法である」に過ぎないにもかかわらず。
(訳注)
・ naturel(s):自然体の
・ lorsque:①~の時に、その時 ②(文学的表現で、対立を表し)~なのに
・ne … que ~:~に過ぎない(限定表現)
・mal :悪く、まずく、不十分に
・poli(s):①礼儀正しい、丁寧な ②磨かれた、つるつるの ③polir(磨く、つや出しをする)の過去分詞。
・grossier(s):①下品な、無作法な、粗野な、無教養な ②粗雑な、大まかな、お粗末でひどい ③武骨な、整っていない ④粗い、手の込んだ
➡これは耳の痛い話です。「私たち若輩者は、何も知識がなく”自然体”だけが売りです」などということを言い訳にして、「無礼」であっていい訳ではありませんよ、という辛口コメントですね。
<引用おわり>
いかがでしたでしょうか。冒頭の「巻頭言」は、「老年期」に対して中立的でした。一方、「若者」に対しては、4つの箴言からは、「応援しつつも、ちょっと辛口コメント」が為されています。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。